※執筆時点 日本時間2月14日(金)12:00
■今週:CPI上振れでも株価は上昇

※2月8日(金)- 2月13日(木)4営業日
関税の影響が懸念される中、1月CPI(消費者物価指数)が市場予想を上回り米長期金利(10年国債利回り)が上昇、株式市場の重石となった一方、AIの収益貢献が期待される情報技術銘柄が上昇し、株式市場を支えました。
CPI上振れで金利上昇
12日(水)の米国金融市場では寄り前に発表された25年1月のCPIが前月比+0.5%、食品・エネルギーを除くコアCPIが同+0.4%と、それぞれ事前の市場予想を上回り、前月から加速したことを受けて市場の利下げ観測が後退、国債利回りが上昇し、同日のS&P500指数とNYダウ指数は下落しました。
株価は安定感を強めている
強い雇用統計と穏当なCPIの組み合わせとなった今年1月からは一転し、2月は弱めの雇用統計と強いCPIの組み合わせとなりました。景気下振れとインフレ高止まりが示唆される中、先物市場が織り込む2025年中の利下げ観測は1回程度まで後退しましたが、主要株価指数は底堅さを見せ、CPI発表当日中に株式市場が織り込む変動率を示すVIX指数が小幅低下して引けるなど、米国株は安定感を高めている様子がうかがえます。
再「利上げ」はあるか?
とはいえ、金利上昇が続けば株価には向かい風です。FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長は下院金融委員会の公聴会で、「当面は景気抑制的な政策を維持したい」と前日に続き予見可能な将来において高水準の金利が続くことを示唆しました。3月FOMC(米連邦公開市場委員会)では、ドッツ(政策金利見通し)が12月会合からさらに上方修正され、市場と同様の1回以下へと修正される可能性が高まっていると言えます。
「20万人」「0.3%」がカギ
現時点では再度利上げに転じるケースはあくまでもリスクシナリオの位置づけですが、もし4-6月期以降も雇用統計の非農業部門雇用者数が前月差+20万人前後の高い伸びを続け、コアCPIが前月比+0.3%以上の高水準を示し続けているようなら、市場が利上げを意識する展開も想定されます。その場合には、米長期金利が5%を上回り、株価には下押し材料となるでしょう。
ハイテクのムードは明るい
半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、ADRのティッカーはTSM)が10日(月)に発表した2025年1月の売上高(速報値)は、前年同月比+35.9%の2932億台湾ドルと1月の過去最高を更新しました。また、メタ・プラットフォームズ(META)が29日(水)の決算発表を挟んで19連騰中(2月13日現在)であるなど、ポジティブなニュースフローが相次ぎました。ディープシークショックも一巡し、IT大手はトランプ大統領が提案する相互関税の影響を受けづらいとの見方もあり、上昇しやすい環境が整っています。
■来週①「相互関税」の行方
13日(木)に、トランプ大統領が相互貿易と相互関税に関する調査を指示する覚書に署名するなど、矢継ぎ早に政策を繰り出すトランプ大統領の一挙手一投足に対して市場の感応度が高い状態が続いています。相互関税の概念は、輸入相手国・地域の米国製品に対する関税率が米国の課す関税率より高い場合、米国が関税率を同率まで引き上げるか、輸入相手国・地域が、米国と同率まで引き下げることを求める政策方針です。商務長官候補のラトニック氏は、米国の貿易赤字が大きい順に、各国に個別に対応するとしており、4月1日を目途に調査を完了する方針を示しました。
EUやメキシコ、ベトナム等から開始か
覚書では、関税だけではなく、貿易相手国のその他の税制(付加価値税を含む)、非関税障壁・非関税措置、為替操作、その他の不公正な規制や貿易慣行も対象となり、最終的に互恵関税に相当する額を決定するとしています。調査結果次第ですが、少なくとも米国の貿易赤字が大きく、平均最恵国関税率が米国(3.3%)よりも1%以上高い、中国、EU(欧州連合)、メキシコ、ベトナム、台湾、韓国、インドについては、米国側が問題を指摘すると見込まれます。
実際の関税発動までには時間
今後、トランプ政権が実際に制裁関税を発動するまでには時間を要すると見られます。4月1日を目途に相互貿易と相互関税に関する調査が終了した後、改めて、既存の法制を用いて制裁措置を検討するための調査に入ると覚書には記されており、これらの調査を踏まえると、発動時期は2026年以降になると考えられます。また、そうした時間的な猶予の間に、貿易相手国との協議、交渉が始まることも考えられます。
一喜一憂せずに長期保有を
関税リスクは1週間単位の株価の変動要因として理解しておく必要がありますが、関税発動の難易度や各国との交渉に左右されるとみられることから、長期投資の目線では企業業績を判断基準とした投資判断を変更する必要はないと考えます。
■来週②20日のウォルマートなど小売決算
今週からは、20日(木)のウォルマート(WMT)など、 2024年11月-2025年1月期決算の小売企業の決算発表が始まります。消費者の行動や、関税による業績・業績予想への影響について、他企業やマクロ経済への示唆が得られないか、確認したいと考えます。
なお、再来週には同四半期の決算発表が本格化し、26日(水)にはエヌビディア(NVDA)やセールスフォース(CRM)の決算を迎えます。来週以降、情報技術銘柄に関する業績予想やニュースフローが増え、株価の変動要因となるため注視したいと考えます。
(投資情報部 デジタル・コンテンツ課)