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AIは救世主となるか、光明差す中国株と中国経済

中国株は政策支援とAIによる成長期待で上昇

長く停滞が続いていた中国株に光明が差しています。香港H株(香港証券取引所に上場している中国本土企業の株価指数)は、年初来でおよそ2割上昇し、日米の主要株価指数をアウトパフォームしました。

中国のベンチャー企業「ディープシーク」が開発した生成AIの最新モデルが低コスト、かつ、性能が優れていることから、中国テクノロジー企業の開発力と成長性が見直されています。また、トランプ政権の関税引き上げによる輸出の落ち込みをカバーするために、2025年3月5~11日に開催された中国の国会に相当する全人代(第14期全国人民代表大会第3回会議)で発表された政策支援も株価を押し上げました。

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(注)データは日次で、直近値は2025年3月11日。香港H株(ハンセン中国企業指数)は香港証券取引所に上場している中国本土企業の株価指数。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

成長率目標は意欲的、成長を支援する意向

全人代は、1年間の政治、経済や外交などの政策方針を審議し、予算案を承認する中国の最も重要な会議の一つです。3月5日に公表された「政府活動報告」では、2025年の経済成長率目標は前年比+5.0%前後と、24年から変わらず、概ね市場予想通りに設定されました。米国による対中関税の引き上げによる輸出への悪影響や、不動産不況が継続する中で、IMF(国際通貨基金)の予想(同+4.6%)を上回る意欲的な目標で、政府が成長を支える決意が感じられます。

財政支出で内需を拡大も、追加支援が必要

目標達成に向けて中国政府は、内需拡大を最重要視し、財政支出を拡大して消費を喚起する意向を示しました。一般会計に相当する一般公共予算の歳出を前年比1.2兆元増の29.7兆元に拡大する方針です。財政支出の拡大に伴い、財政赤字対GDP比率を4%前後と、24年の3%前後から引き上げます。一般予算とは別枠の超長期中央政府特別債と地方政府特別債の発行枠の合計は、24年の5.0兆元から25年には5.7兆元に引き上げられました。それら予算外の資金調達を含む、実質的な財政赤字の対GDP比は24年の7.8%から10.0%に上昇すると野村では予想します。

しかし、今回の財政規模では成長目標を下回る可能性が高く、追加的な支援策が必要になると野村では予想します。米中対立に伴う貿易への悪影響、長引く不動産不況、力強さを欠く内需回復の中、25年の実質GDP成長率は4.5%前後に留まると予想します。

(注)全てを網羅している訳ではない。
(出所)国務院、各種報道、野村證券市場戦略リサーチ部、野村国際(香港)より野村證券投資情報部作成

消費支援は成長を下支えも、構造改革には慎重

2025年の重点政策は、10項目が挙げられています。24年に3番目の目標とされた「内需拡大」が、25年は最優先に位置づけられました。内需拡大策には、家電などの耐久消費財の買い換え補助金の拡大(24年の1,500億元から25年は3,000億元)が含まれます。これらは年前半の個人消費を支えるとみていますが、24年から実施している制度であるため、年後半には効果が薄れる可能性があります。また、公的年金・医療保険などを拡充しますが、僅かな増額のため、効果は限定的でしょう。消費の抜本的な押し上げには、福祉の充実や所得再配分により貧富の格差を緩和するなどの、構造改革が求められますが、中国政府は慎重姿勢を維持しています。

(注)全てを網羅している訳ではない。
(出所)国務院、各種報道、野村国際(香港)より野村證券投資情報部作成

ディープシークの活用で投資や雇用を創造

消費に続いて重視されているのが科学技術の分野です。特に、目立ったのがAIを中心としたハイテク産業の支援強化や民営企業の経営環境の改善です。およそ1兆元で「国家起業投資誘導基金」を設立し、AIなどの分野の企業に対してベンチャー・キャピタルの形式により投資する計画です。また、AIの技術をあらゆる産業に応用し、活用する方針です。2月中旬以降、政府は公立大学・病院、国有企業など様々な分野の公的機関にディープシークの利用と普及を指示した模様です。経済のデジタル化の推進により設備投資を拡大し、新興企業を育成し、雇用を創造する狙いがあると考えられます。

不動産市況の回復と金融システムの安定を重視

中国では不動産開発会社の資金難から工事が停止し、予約販売済みの未完成住宅が大量に存在することで、消費者の信頼感が低下し、住宅販売が落ち込んでいます。地方政府に権限を与え、在庫住宅の買い上げにより、購入者への住宅引き渡しを支援する意向です。また、住宅の新規供給を抑制することで、不動産市況を安定化させる方針も示しました。さらに、特別国債の発行で調達した5,000億元を国有大手銀行に資本注入し、不動産不況による金融システミックリスクに備えます。

(注)データは月次で、期間は2015年1月~2024年12月。四大都市は、北京・上海・広州・深セン。
(出所)CEICデータベ-スより野村證券投資情報部作成

規制緩和、消費主導など構造改革が成長のカギ

関連産業を含めるとGDPの3割を占めると試算される住宅市場の回復は、中国経済と中国株が中長期的に成長を持続するには重要です。しかし、人口が減少している状況では、中国の経済成長をけん引してきた住宅などへの固定資本投資への依存度を低下させ、民間消費が成長のドライバーとなることが求められます。また、AIなどテクノロジー企業への資金支援は重要ですが、「規制緩和」が最も成長に寄与する政策の一つとみられています。このような踏み込んだ構造改革が行われるかが、中国の成長期待が持ち直すカギになるでしょう。

(野村證券投資情報部 坪川 一浩)

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