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トランプ大統領は独立記念日である2025年7月4日、大規模な減税・歳出法案(OBBB・「The One, Big, Beautiful Bill」)に署名し、同法案は成立しました。上院、下院でそれぞれ僅差で成立したため、両院のすり合わせに時間がかかると見られましたが、下院は上院案に修正を加えることなく成立しました。
主要な項目は25年末で期限切れとなる所得税減税(トランプ減税)の恒久化です。26年以降、景気下押し圧力を回避することができますが、税率は横ばいですので、新たな景気押し上げ効果は小さいと言えます。
また、このOBBBには25年8月中にも対応が必要と考えられていた連邦債務法定上限について、上限を5兆ドル引き上げる条項が含まれています。従って、米国債の新規発行停止、テクニカル・デフォルト(技術的債務不履行)発生のリスクは当面回避される見込みです。
しかし、25年6月27日に公表されたCBO(米議会予算局)の試算によれば、OBBBにより連邦財政収支は25~34年度(会計年度は10月~翌年9月)の10年間で約3.4兆ドル、財政赤字が悪化するとされます(下図)。26年度以降、米国の財政赤字は2兆ドルを超える見通しです(24年の米国の名目GDPは約29兆ドルで、財政赤字の対GDP比は6%強となる)。
OBBBによる財政収支への影響

(注)数値はプラスが財政赤字を示す。OBBBは「The One, Big, Beautiful Bill」の略で「一つの大きく美しい法案」。ベースライン財政赤字はCBO(米議会予算局)が2025年1月に発表した連邦財政収支見通し。年度は米国の会計年度ベース(当該年度の前年10月~当該年度9月)。データは年度。
(出所)CBO、CRFB(責任ある連邦予算委員会)より野村證券投資情報部作成
市場は各国の財政状況を注視しています。近年では英国において22年9月にトラス首相(当時)が打ち出した一連の財政政策「ミニ・バジェット」により、通貨・国債・株式市場が下落したこと(トリプル安)が記憶に新しいですが、最近でも25年7月に入り、同じ英国でスターマー政権が掲げる福祉給付削減法案を含む財政計画の実現性が懸念され、トリプル安が見られました。
日本においてもそうですが、米国においても10年以上の長期、及び超長期の金利が上昇、ないしは高止まりしています。長期にわたって財政のサステナビリティー(ファイナンスの持続可能性)について、市場が警戒しています。タームプレミアムの上昇(下図)により、金利に上昇圧力がかかるリスクを十分にモニターする必要があるでしょう。米国財務省証券(米国債)の海外投資家・国際機関の保有割合は約24%です(24年12月末現在の米財務省による推計)。海外経由で金利上昇圧力がかかるリスクも否定しえません。
米国10年国債利回りのタームプレミアム

(注)データは月次で直近値は2025年6月。10年国債タームプレミアムとは期間が長めの債券を保有する場合、価格変動リスクや流動性リスクが高まる分だけ、投資家が求める上乗せ金利のことで、NY連銀による算出。
(出所)NY連銀より野村證券投資情報部作成