業績は低迷も回復に期待

 7月以降、デルタ株の発生で新型コロナウイルス(以下コロナ)の感染が再拡大し、政府による緊急事態宣言が長期化している。このため、景気の本格回復は、冬以降にずれこむという見方が広がっている。

 野村では、鉄道事業やホテル事業の売上高が大きい西武ホールディングスや、寮・社宅・ホテルを主要事業とする共立メンテナンスの2022.3期の通期の業績予想を4~6月決算を踏まえて下方修正したが、投資家の関心は、今秋以降の行動制限の緩和に伴う経済活動の再開に移りつつあると見てよいだろう。「With コロナ期」から「ポストコロナ期」への過渡期にあたると見られる21年度下期から22年度にかけての注目点は、消費行動も含めて、どのような人々の行動変容が見られるかという点である。

 ワクチン接種が進み、経済活動が正常化する過程で、オフィスへの出社率の回復や、企業による新たなオフィス戦略が見えてくるだろう。21年7月から22年末迄は、東京都心5区における新築オフィスビルの供給が限られることから、二次空室の懸念が後退する見通しである。また、経済活動の再開でオフィス需要が増加してくると、オフィス需給が一時的にせよ逼迫する可能性がある。実際、オフィス仲介大手の三鬼商事が毎月公表している東京都心5区のオフィス空室率データは、20年2月の1.49%をボトムに悪化を始め、特に20年6月から21年6月までは早いピッチで悪化したが、7月は前月比9bp(0.09%ポイント)の悪化、8月は同3bpの悪化と悪化ペースが緩やかになり6.31%だった。

 三井不動産や野村不動産ホールディングスなどデベロッパーは、従来型のオフィスに加えて、シェアオフィス、サテライトオフィスなど働き方の変化に応じた提案ができるようオフィスのバリエーションを増やしている。

 23年以降は、港区の虎ノ門、麻布台、三田、品川駅北周辺地区などを中心に多くの新築ビルの供給を控えており、オフィス需給に楽観的にはなりづらいだろう。リモートワークの定着も気にかかる。しかし、個々のビルや、ビルオーナーのオペレーションの巧拙次第で業績格差が出てくる可能性が高まっていると言えよう。

需要刺激策など政策にも注目

 コロナ禍において強まった「快適な住宅への住み替えやリフォーム需要」の持続性も注目である。家計の支出のバランスが「住宅内の巣ごもり消費」から、「住宅外のリベンジ消費」、例えばホテルやレジャーなどへ変化するとホテル関連企業への投資家の関心が高まるだろう。

 住宅需要は、日本のみならず米国など海外でも強く、今春には輸入材の価格が高騰したことなどにより、日本の工務店の一部では木材を十分に確保できない状況にあると言われる。大手住宅メーカーの中には必要な材料を確保した上で、コスト上昇の一部を販売価格へ転嫁する動きを見せているが、材料を確保できない工務店が多いようだと、新築住宅市場の需給バランスが逼迫することになる。住宅価格が強含んで推移する可能性があろう。住宅ローン金利が低位で推移すると考えるため、住宅の取得環境は良好だが、一方で住宅ローン減税などの政府による住宅取得支援策の多くが21年年末までに期日を迎える。次の内閣による経済政策、住宅・不動産需要の刺激策、例えば脱炭素化社会実現に向けたZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及推進策などに注目する。

 商業やホテル・レジャー施設は、行動制限の緩和とともに、回復すると見られる。回復までには運転資金などを要する会社もあろうが、コロナが収束に向かえば、日本人の需要を中心とした回復が期待できる。ただし、外国人の入国制限が今しばらく続くと見られるため、コロナ発生前は外国人の需要で好調だった施設ほど、回復ペースが緩やかとなる可能性がある。例えば、東京、大阪、京都などの宿泊特化型ホテルである。需給バランスが悪く、価格競争が続くことがリスクだろう。

 20年の延宿泊者数は前年比44%減の3.3億人泊と大幅に減少したが、「Go To トラベル事業」の利用人泊数は少なくとも8,781万人泊で、全体の26%を占め、政府による支援額は少なくとも約5,399億円だった。「Go Toトラベル事業」の再開が期待されており、実施されれば、近隣地域内観光(マイクロツーリズム)や日本人が主要顧客の観光ホテルへの回復は始まることになろう。

 運輸、観光、レジャー事業を主とする企業の他に、大手住宅・不動産企業の中では、三井不動産や大和ハウス工業がホテル、商業施設、レジャー施設の売上高が大きく、コロナによる悪影響を受けている。23.3期以降の業績の本格回復を期待する。

(福島 大輔)

※野村週報2021年9月20日号「産業界」より

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