日本株持ち直しの背景整理

 日経平均は再び3万円目前まで回復してきた。プラス材料が続いているというよりは、10月に強まった警戒モードが解消さている色彩が強い。①衆議院議員総選挙(10月31日)は自民党単独での絶対安定多数と、過半数の「攻防」(10月28日付、日経電子版)と見られていた事前の想定を上回った、②FOMC(米連邦公開市場委員会)発表(11月3日)ではタカ派化(将来の利上げ姿勢の強化)が回避された、③7~9月期決算はアナリスト予想以上で、失望にはつながっていない、の3点である。

 景気敏感という性質が似た欧州株に対し、日本株の「割安化」は2021年3月頃から顕著だ。8月までは、①新型コロナウイルス(以下コロナ)感染状況の悪化、②菅内閣の支持率低下、③海外投資家の日本株ポジション(持ち高)縮小、が影響したと見ている。9月にはこれらが全面的に解消されたものの、10月前半には新たな3点(選挙、FOMC、決算)への警戒が強まり、ふたたび解消、という繰り返しであった。12カ月先予想PER(株価収益率)(11月8日時点)でTOPIX(東証株価指数)は14.3倍と、欧州株(STOXX600)の16.0倍に比べ10.9%割安にある。日本株の当面の上昇余地の目途となろう。

 7~9月期の業績が市場予想を上回って推移しており、企業側の景況感も堅調である。例えば、日銀短観の業況判断指数(大企業製造業、9月調査)は18と、ブルームバーグ調査予想中央値13を大幅に上回った。さらに、QUICK による「自社の株価は割高/割安いずれか」との調査でも、株価上昇にもかかわらず「割高」との回答が横ばい圏内にとどまっている。足元に関しては半導体不足など生産制約の影響が表れているとみられるものの、業況への悪影響は限定的という見方が表れているだろう。

 むしろ日本は製造業活動のリバウンド余地が、他の主要国・地域より大きいという点も注目される。18年の製造業稼働率を100とした場合、21年第3四半期時点で日本は欧米に比べ低い位置にあり、生産制約の影響をより大きく受けているとみられ業績不安が解消される過程では、海外投資家による日本株の買い越し基調がふたたび強まる公算が大きいとみる。

原油高による実需の円売りが当面続く

 当面のリスク要因は何か。まず、為替については円高リスクについての指摘がある。シカゴ先物市場で観察されるような投機的持ち高は確かに円ショート(売り持ち)に傾斜しており、仮に巻き戻された場合には円高圧力となる面はあろう。

 しかし、1ドル=110円から114円前後へとレンジが切り上がった背景には、①FRB(米連邦準備理事会)の将来的な利上げの織り込み進捗、②原油高による実需の円売り圧力の高まり、という2つのファンダメンタルズの変化が進行している。後者については、原油高→日本のエネルギー輸入企業のドル支払いの拡大=ドル買い・円売り需要の顕在化、という因果関係が、約半年のタイムラグをもっていることが分かる。投機や金利差に頼らない円安圧力は残存し続けよう。

 マクロ環境の最大のリスクは、中国景気に再び黄信号が点灯していることである。製造業の稼働状況をよく映し出す鉄鋼価格(熱延コイル)は、10月下旬から急落している。この市況は、18年以降、米国株の下落に先んじて下落する性質をもってきただけに、要注意だろう。とりわけ、12月15日のFOMC が近づくなかでも中国鉄鋼価格が下がり続けているようだと、「FRB タカ派化と中国景気の減速」という悪い組み合わせが再度嫌気され、グローバルな株価調整をまねく可能性がある。

 21年のグローバル株式市場は、総じて力強い上昇トレンドを維持した。コロナ禍からの景気回復が続く一方、日・米・欧の3大中銀は政策の正常化を急がない姿勢を保っている。これにより、企業業績は大幅増益、バリュエーション(PER)も底堅く推移、というのが全体像となった。世界経済の回復が前半戦だったことが株高継続の大きな背景であった。

 これに対し、22年は回復後半戦に入っていくだろう。象徴的なのは21年10月時点で米失業率が4.6%まで低下していることだろう。1993年以降の年間TOPIX リターンを見ると、米失業率が高い局面から低い局面にシフトするほど、翌年の年間リターンが下がるという傾向が確認できる。

 とはいえ、TOPIX の指数と12カ月累積EPS(1株当たり利益)がピークをつけるタイミングには、過去、7~10カ月程度の時間差がある。企業業績のピークが23年1~3月期あたりになると想定した場合でも、それを織り込む時期として22年前半はまだ早すぎるだろう。

(池田 雄之輔)

※野村週報2021年11月22日号「焦点」より

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