見えてきた感染症の収束

 2021年は、内外でのワクチン接種の進捗もあり、新型コロナウイルス感染症流行からの出口がようやく見通せるようになってきた1年であった。年前半にはワクチン接種で先行した米欧諸国において経済活動再開が前進した。夏場まで感染第5波に見舞われていた国内でも、さまざまな行動制限の緩和が実現できる段階に達した。

 IMF(国際通貨基金)が20年10月に公表した世界経済見通しで、各国・地域の実質GDP(国内総生産)の動きを比較すると、先進国・地域と新興国・地域で、ワクチン接種の進捗状況の違いなどを反映して、回復の程度、タイミングには相当のバラツキがある。しかし、一部の国・地域では、22年には過去の成長トレンドを上回る回復が予想されている。世界経済全体でみて、22年は概ねコロナ前への回帰が見通せる状況であると言える。

 一方で、21年の世界経済は、感染症収束に向けての「生みの苦しみ」とでも言うべき状況にも直面した。

 感染症流行の下で、「巣籠もり特需」「ステイホーム(在宅)特需」が発生した耐久消費財を中心に、半導体など部品の生産が追い付かなくなる供給制約が生じた。供給制約に伴う需給のミスマッチ(不整合)は、原燃料、部品市況の高騰を通じて、世界的なインフレ加速を招いた。

 さらに、中国経済の先行きに対する不安が、感染症収束に伴う世界経済の持ち直しに水を差す懸念も台頭した。

 中国・習近平政権が打ち出している「共同富裕」と題する格差是正策は、経済に対するさまざまな規制・統制の強化をもたらした。これまで世界経済の成長センターであった中国経済が、成長一辺倒の経済戦略がもたらした歪みの是正に乗り出しはじめることで、世界経済全体の成長にブレーキをかける懸念が高まったと言えるだろう。

 インフレの加速や中国経済の悪化が、感染症収束に向かう世界経済の腰を折る恐れは低いと野村では判断する。感染症収束に伴い、「特需」が生じていた耐久消費財から、感染症流行の下で需要が抑えられてきたサービスへと需要の軸がシフトしながら、供給制約の緩和と経済の回復が同時に実現されていくと考えられる。

「長期停滞」打破への課題

 しかし、感染症収束とともに、世界経済は新たな課題にも直面しつつある。大規模気候変動への対応として21世紀中盤を目指し実現が加速するカーボンニュートラル(脱炭素化)への取り組みが一例である。

 脱炭素目標の実現は、エネルギー生産や輸送機械の生産において、既存の技術、製品の置換を迫られることを通じて、新たな成長機会や投資機会を生み出すものでもある。特に、先進国・地域が、人口減少・高齢化や経済の成熟を背景に直面していた、低成長・低インフレの持続に象徴される経済の「長期停滞」を打破する起爆剤として期待される取り組みであるとも言える。

 一方、「グリーンフレーション(環境対応加速に伴う物価高)」とも称されるような、脱炭素化実現に要する追加的なコスト負担も意識されはじめている。製品やサービスに脱炭素、環境関連の新技術を付加するコストとともに、脱炭素化目標実現で需要が縮小していく化石燃料について、新規採掘や既存生産設備の更新がされず、かえって長期的に供給不足が生じるとの懸念が、市況高騰要因として浮上しつつある。

 気がかりなのは、新たな成長機会となるはずの脱炭素化実現への動きが、付随するコスト負担増を通じて経済成長を押し下げてしまう展開である。

 経済活動再開への動きやインフレ加速を背景に、金融政策の正常化が早まるとの期待から、米国を中心に市場金利の上昇が進んだ。一方、米国債市場において、長期、超長期の年限を中心に、実質金利の低迷・低下が目立ったのは、こうした中長期的な経済成長期待の低下を反映した結果である可能性もある。

 感染症収束がようやく見通せる22年は、世界経済が脱炭素化を中心とする新たな課題に取り組みつつ、感染症流行前に直面していた「長期停滞」を脱却できるかどうかが問われる重要な時期ともなる可能性があるだろう。

(美和 卓)

※野村週報2022年新春号「内外経済展望」より

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