米日金利差拡大が継続へ

 2021年のドル円相場を振り返ると、年明け直後の1月6日に1ドル102円59銭まで円高が進んだ後、明確な円安ドル高トレンドへと転じた。3月30日に110円を突破して以降、9月半ばまでは110円を中心としたレンジ相場が続いたが、米連邦準備制度理事会(FRB)の9月連邦公開市場委員会(FOMC)を契機に円安ドル高圧力が再燃し、11月24日には115円52銭まで上昇している。その後、新型コロナの変異株であるオミクロン株への警戒が広がったことで調整しているが、113円台での底堅い推移となっている。

 22年も世界経済のコロナショックからの回復が継続し、為替市場では円安圧力が強い状況を予想する。FRBも22年3月には資産購入縮小を完了させ、早期に利上げに着手する可能性が高い。22年中に三度の利上げは市場でほぼ織り込まれているものの、実際の利上げ時期が近づくに連れ、米国の2年や5年債利回りは一段の上昇の可能性が高い。ドル円相場にとっては、10年金利差などの長い年限よりも、5年金利差の重要度が高く、米日金利差の一段の拡大が円安ドル高圧力となるだろう。足元の金利差とドル円の関係に基づけば、ドル円相場は22年前半には1ドル115~120円レンジへの早期移行が予想される。

 ドル円が一時1ドル115円超えとなったことで、一部で円安の行き過ぎに対する警戒感も台頭しているが、足元の円安は内外のファンダメンタルズ(経済の基礎的状況)の変化を反映した「自然な円安」と考えられる。その分、円安の持続性は高いだろう。足元の円安が世界経済の回復と米国の利上げという海外要因を主な牽引役としていることから、本邦当局の牽制による円高効果も当時より低い可能性がある。

警戒すべき円高リスク材料は?

 22年に警戒すべき円高リスク材料としては、①新型コロナの感染状況、②中国景気、が挙げられる。

 日本では新型コロナの感染抑制が顕著だが、欧米ではワクチン接種進展にもかかわらず、デルタ株による新規感染者数の増加が見られている。オミクロン株の発生もあり、足元では改めて新型コロナの動向が市場の注目を集めているが、22年以降も新たな変異株の発生もあり得る。もっとも、新型コロナ感染状況の円相場への影響を考える上では、既に主要国がウィズコロナの姿勢に傾いており、多少の感染増では経済的な影響が限られるようになっていることが重要だろう。その分、円高圧力も限定されやすくなっている。オミクロン株を含め、今後の変異株が重症患者や死者数増加につながってしまうような感染力・毒性を持つかに警戒が必要だが、現時点ではオミクロン株によって円高が加速するリスクは限定的と判断する。

 中国景気は足元で減速感が強い。22年1~3月期までは実質経済成長率の鈍化が続くと見られ、潜在的な円高リスクとなる。もっとも、中国当局が預金準備率の引き下げに動くなど、景気下支えに動き始めたことは、中国景気失速リスクを低下させよう。中国でも生産者物価の上昇が加速したことから、当局による金融緩和の再開は遅れたが、足元では生産者物価にピークアウトの兆しが強まっている。インフレ圧力の低下は、当局の政策対応余地を拡大させよう。22年央には中国の景気回復感が強まり、中国発の円高リスクも低下を見込む。

 22年後半には、①米利上げ開始後に円高ドル安となる傾向、②需給面の変化の可能性、③中間選挙に絡んだ米政治リスク、④日本銀行総裁人事に向けた思惑の台頭、という4つの円高リスクにも注意が必要だが、22年前半には需給的にも依然として円安が加速しやすい地合いが続こう。22年6月末のドル円相場予想を1ドル117円とするが、年央にかけて120円を試すないしは超える可能性も否定できない。ただし、年後半には米利上げ後の利益確定的な売りなども出やすいことを考慮し、22年末のドル円予想を115円としている。

 年後半には世界経済の回復継続を確認、徐々に円とドルが弱い21年前半までの相場展開が再現される可能性が高い。年前半は対ドル中心の円売りが推奨されるが、年後半に向けては欧州G10通貨や資源国通貨、一部の新興国通貨での円売りの好機も訪れそうである。

(後藤 祐二朗)

野村週報2022年新春号「外国為替市場」より

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