米利上げ観測や中国懸念が重石に

 新興国通貨は2021年12月10日時点で、中国人民元など一部の通貨を除き前年末比では対ドルで下落している。

 下落率最大はトルコリラである。リラの対ドル価値は21年初めのほぼ半分となっている。①経済成長を強く志向するエルドアン大統領がトルコ中央銀行に対し利下げを要求、19年7月以降、3名の中銀総裁を更迭したことや、②トルコ中銀が国内の銀行や海外中銀と行っている通貨スワップで借り入れている外貨を除外した正味の外貨準備はマイナスの領域となっていることなど、同国は他の新興国と比較して極端な状況にあると見られるが、当面は波及リスクを含めて一定の警戒が必要となろう。

 もっとも、トルコリラを除けば、他の新興国通貨の対ドルの年初来下落率は一桁台に留まっている。この間、日本円が対ドルで約9%下落していることを踏まえれば、ほとんどの新興国通貨は対円では横ばいないし上昇した計算になる。

 先行きは、米国連邦準備理事会(FRB)が22年中にも利上げを実施する公算が強まりつつある中、新興国通貨は当面、米金融政策の動向に左右される展開が想定される。野村では、一段とFRB の利上げが市場で織り込まれることになると見ているほか、堅調な米景気と低調な他の主要国・地域(欧州や中国、日本など)の景気回復、という対比から22年1~3月期にかけてドル高が進み、その裏返しで新興国通貨安が進む可能性が高いと見込んでいる。

米利上げの年に新興国通貨が反発傾向

 もっとも、22年4~6月期以降は以下の3つの要素を原動力に、アジアを中心に新興国通貨が全体的に反発する可能性が高いと見ている。

 ①04年と15年からの過去2度の米利上げ局面では、最初の利上げ前に新興国通貨が動揺する場面が見られたものの、市場の織り込みが進んでいたこともあり、利上げ後には大きく反発した。

 今後、米FRBの利上げに対する市場の織り込みが一段と進展すると見られることは、その手前で新興国通貨にとってリスクとなるが、先行きの下落リスクは徐々に後退しよう。

 ②中国景気の復調の可能性。野村では22年1~3月期にかけて景気減速が強まると見ているが、既に預金準備率引き下げなど、成長下支えに向けた政策対応の動きも見られている。野村の想定通り、22年後半にかけて中国景気が復調すれば、経済的な結びつきの強いアジア諸国や資源国にとって、外需の押し上げ要因となり、ひいては通貨の安定化要因となろう。

 ③新型コロナへの懸念の後退の可能性。新興国のワクチン接種率はまだ各国ごとにバラツキがあるものの、それでも全体的に接種が進展しつつある。インドやインドネシアなど、ワクチン接種の遅れが目立っていたアジアの人口大国も22年半ばには人口の半分がワクチン接種を完了する見込みである。グローバルに経済活動の正常化の流れが続き、人々の往来が活発化すれば、観光業など新型コロナ禍で打撃が大きかった産業の復調につながる可能性がある。その場合、特に、タイやインドネシアをはじめアジアの観光大国にとって、経済・金融市場の追い風となろう。

 一方、リスクシナリオとして、FRBの利上げが世界的なリスク回避を招くケース、中国の不動産市場を巡る混乱が一段と深まり景気減速がより長期化するケース、オミクロン株をはじめ新たな新型コロナの変異株が広まり人々の往来が再び制限されるケース、が挙げられる。

(中島 將行)

※野村週報2022年新春号「新興国為替市場」より

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