オミクロン株、日米中マクロの注目点

 2021年の日本株式市場は、夏場の新型コロナウイルス(以下コロナ)・デルタ株の感染拡大、11月末からのオミクロン株への警戒、と二度にわたって大きく揺さぶられた。だが、22年にかけての日本株動向はコロナもさることながら、日米中マクロ状況の変化が重要となりそうである。

 まず、オミクロン株が世界経済の脅威となるかどうかは、各国で大規模・長期間のロックダウン(都市封鎖)が必要になるかが鍵を握ろう。21年12月7日時点でこの変異株は、感染力の高さ、ワクチンの効きにくさが指摘されている一方、無症状・軽症者が大多数とされる。世界はコロナ克服に向かっているとの基本観は変わらない。

 「オミクロン・ショック」が日本株の大幅下落を招いた一因は、岸田政権の感染封じ込め策が厳しいものになることへの警戒だったと考えられる。政府は外国人の入国全面禁止など水際対策を早期に打ち出し、元来アフリカ地域との往来が少ないこともあり、欧米対比でオミクロン株の感染抑制に成功している。先行きの政府のオミクロン株対応を占う上では、重症化リスクに関するWHO(世界保健機関)などの見解に加え国内世論も重要となろう。厳しい封じ込め政策への国民の支持が高い場合、7月の参議院議員選挙まで、岸田政権は国境リオープンに後ろ向きになる可能性がある。

 マクロ情勢では、中国経済の変化が重要だろう。同国の不動産市場には下振れリスクがあるとみているが、前向きな変化もある。21年11月の製造業PMI(購買担当者景気指数、政府版)は8カ月ぶりに前月比プラスを記録した。中国政府が10月以降、徐々に景気下支え姿勢を強めており、12月6日には預金準備率の引き下げが発表された。製造業活動は大気汚染を悪化させない程度に持ち直すシナリオが視野に入ってきた。中国景気に感応度が高い、機械、自動車は当面の推奨セクターに挙げられる。

 米国金融政策は、「インフレ牽制」の姿勢が明らかになる度に、一時的な株安要因となり得る。しかし、オミクロン株の重症化リスクが想定外に高くならない限り、日本株の下振れ余地は限定的と予想する。業績堅調を根拠に日経平均は22年3月末の予想値:32,000円を維持する。

22年の日本株は年央高、後半足踏み

 日経平均株価の高値は、4~6月期に34,000円の「年央高」を見込む。企業業績は、GDP(国内総生産)などのマクロシナリオに基づき、TOPIX - EPS(東証株価指数1株当たり利益)を21年度:115.8(前年度比+27.9%)、22年度:139.5(同+20.4%)、23年度:145.0(同+4.0%)と試算している。好業績を織り込む株高局面は続くだろう。過去を振り返っても、2000年以降、TOPIXとTOPIX - EPS(12カ月累積ベース)のピークアウトの時間差は、3~15カ月となっており、中位3例では7~10カ月だった。仮に22年度末(23年1~3月期)を業績水準のピークとすると、株価のピークは22年4~6月期という大まかなイメージになる。

 22年後半に株価の足踏みを予想する理由は、「世界景気が回復の後半戦に入るから」とも言い換えられる。21年のグローバル株式市場が、米国を中心に、総じて力強い上昇トレンドを維持できた背景には、コロナ禍からの景気回復が続く一方、日・米・欧の3大中銀が政策の正常化を急がない姿勢を保ったことがあった。この組み合わせにより、企業業績は大幅増益、バリュエーション(PER、株価収益率)も底堅く推移、というのが全体像となった。世界経済の回復が前半戦だったことが株高継続の大きな背景だった。

 22年が回復後半戦に入っていくことの象徴は、21年11月時点で米失業率が4.2%まで低下していることだろう。1993年以降の年間TOPIXリターン(収益率)を見ると、米失業率が高い局面から低い局面へシフトするほど、年間リターンが下がる傾向が確認できる。グローバル景気サイクルの観点からは、22年、とくに後半は日本株インデックスが足踏みする可能性をみておきたい。

 この時期には、内外のリスク要因が集中することも慎重論の根拠となる。第一に、米国では中間選挙後に上下院の少なくとも一方を共和党が奪回し、民主党バイデン政権との「ねじれ」が発生、政治が停滞するリスクがある。第二に、国内では7月の参議院議員選挙の後、国政選挙の空白期間が訪れるため、岸田政権が増税路線にかじを切りやすくなる。第三に、黒田日本銀行総裁の任期満了(23年4月)が近づき、日銀の政策継続性への不透明感が高まる。

 景気・企業業績の回復頭打ちや、これら不透明要因を踏まえると、セクター判断については、外需・景気敏感優位から内需・ディフェンシブ優位への一時的なシフトが22年半ばに訪れるとみる。

(池田 雄之輔)

※野村週報2022年新春号「日本株式市場」より

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