米長期金利に上昇余地、銀行株に恩恵

 年明けの金融市場では、米国10年国債金利が一時1.8%超まで急騰した。FRB(米国連邦準備理事会)が利上げ及びバランスシート縮小(以下QT)の早期開始を検討する姿勢を示したことがきっかけである。

 QTを行う意向を明確にしたということは、FRB は長期金利の上昇を望んでいると解釈できる。長期金利の向かうレベルとしてFRBが自ら提示している政策金利の「長期見通し」を参考にすると、現状2.50%である。過去10年間、米30年国債金利はこの長期見通し水準が上限となって推移していることが多い。

 前回、FRBが連続利上げに転じた2016年12月前後の場合、両者が3.0%で一致している。これを踏まえると、野村のメインシナリオ通り22年3月から連続利上げ局面に入る場合、米30年金利=2.5%が一つの目安となろう(野村の米10年金利予想は22年12月:2.00%)。

 米長期金利上昇の恩恵を受ける日本株セクターの一つとして銀行が挙げられる。TOPIX(東証株価指数)銀行株指数は、日本銀行の政策金利変更への期待が動きにくくなった19年秋以降、米10年金利との連動性が高い。21年初来の銀行株パフォーマンスの高さも、米金利上昇とおおむね一致している。利上げ開始までは「FRBタカ派化(利上げ姿勢強化)」が市場のテーマであり続ける可能性が高く、銀行株には当面投資妙味ありとみる。

 一方、利上げとQT が同時進行する場合、米国株はどの程度の下押し圧力を受けるか。米国株のサイクルを安定的に説明するISM(全米供給管理協会)製造業指数とS&P500の2000年以降の前年変化率を比較すると、両者は、新型コロナショック前後も含め、長期での方向性の乖離は生じていないことが分かる。一方、米金融政策が変化する局面では、株価はISM 製造業指数が示唆する米国株の「理論値」から乖離しやすかった。米国株に対し、前回のQT(17年10月~19年8月)は-5.7%、利上げ政策(15年12月~18年12月)は-2.5%乖離と試算された。この試算結果を参考にした場合、今後、FRB が利上げとQT を同時進行させると、潜在的な米株下押しは合計で8.2%が一つの目安になろう。

セクター戦略の軸は中国景気回復に変化

 22年前半の海外マクロ環境という点では、春先以降は中国景気持ち直しがより重要になると予想する。すでに中国製造業PMI(購買担当者景気指数、政府版)は11月・12月と2カ月連続で上昇したが、2月の北京五輪明けから11月の共産党大会に向けては景気テコ入れ姿勢が強まると考えられる。そこで、米実質金利(30年)と中国製造業PMIの2変数に対する日本株セクターの感応度を測定すると、米実質金利の上昇が追い風となりやすいセクターは鉄鋼・非鉄、銀行、自動車・輸送機、金融(除く銀行)という順となった。春先までの高パフォーマンス候補と位置付けられる。中国景気に敏感な業種は、電機・精密、機械、建設・資材、鉄鋼・非鉄、の順となった。ただし過去の中国景気回復と比べ、ここからの局面では建設投資は抑制気味となる公算が大きい点を考慮し、加工・輸出セクターが有利と考えている。

 日本株のバリュー/グロース(割安株〈低株価純資産倍率株〉/成長株)の相対株価は、米実質金利との連動性が引き続き高く、「FRBのタカ派化=バリュー株有利」と考えてよさそうだ。10年名目金利が2.0%に達する際、インフレ期待が現状並みの2.5%であれば、実質金利の目安は-0.5%となる。過去相関に基づくと、バリューの対グロースのアウトパフォーム余地は3~4%と比較的小さい。これは、FRBのタカ派シフトがある程度織り込まれており、サプライズ余地が狭まっていることと表裏一体の関係にある。

 この点は、16年後半に鮮明化した「バリューラリー」と今次局面の根本的な違いとなっており、重要である。16年前半は、1月に人民元ショック、6月に英国民投票での「EU(欧州連合)離脱決定」という2つの大きな株安・金利低下の波を経験、1ドル=100円まで円高が進んだ。しかも、16年11月の米大統領選に向けては、米国の政策不透明感も重しとなった。この間、水面下では中国景気が16年春先から急回復しており、これに米大統領選の決着(トランプ氏勝利)による不透明感の後退が合わさる形で世界的な株高・金利上昇・円安が進行し、リスク回避からリスク選好へと急転したのが16年後半だった。

 これに対し、今次局面では金利上昇・円安などバリュー株に有利な環境変化はすでに緩やかに実現しており、伸びしろは大きくない。バリュー株優位の相場はすでに後半戦に入っており、その賞味期限は3~6月までとみている。

(市場戦略リサーチ部 池田 雄之輔)

※野村週報2022年1月24日号「焦点」より

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

ご投資にあたっての注意点