英国のコンサルティング会社ナイトフランクによれば、保有資産が3,000万米ドル以上の超富裕層個人は資産の5%程度をアート(美術品)に代表される収集品で保有している。アートを保有する理由としては、どうしてもこの作品を手に入れたいというパッション(情熱)に加え、資産運用・分散投資の観点が挙げられる。資産クラスとしてのアートは株式や債券との相関係数は低いか負の相関とのデータもある。

 世界のアートの市場規模は641億米ドル(2019年)、国別では米国、英国、中国の3カ国で82%を占めている。アート市場は、アーティスト(製作者)やコレクター(購入者)だけではなく、オークションハウス、ギャラリー、キュレーター等、多様な職種、人材によって支えられており、これらが相互に影響を与えアート作品の価格を形成している。

 アートの価値は、美しさ、希少性、市場性で測ることができる、ともいわれる。市場性を支えるアートの売買市場は、株式市場と類似しており、新作を販売する「プライマリー市場」と既存の作品を売買する「セカンダリー市場」に大別される。後者ではオークションハウスが重要な役割を担っており、アート価格に及ぼす影響は非常に大きい。

 アートをアセットクラスとしてみた場合、アートの市場全体の価格動向を表す指数(インデックス)は、投資判断の重要な情報となる。ただし、個別作品の売買頻度が低いため、アートの市場の価格動向を示す指数は不動産価格指数と同様に回帰モデルを用いて算出される。代表的なインデックスとしてはArtprice.com が提供する「Artprice Index」等がある。同インデックスによれば、すでに評価が確立された作品よりも、新たに注目されるようになったアーティストのカテゴリーの方が、価格変動(ボラティリティ)が高い傾向にある。

 欧米の金融機関では、富裕層向けビジネスの一環としてアートの専門部署を設け、コレクションに関するサポートやアート担保融資等のサービスを展開している。成長分野として富裕層ビジネスへの取り組みを強化している日本の金融機関においても、アート関連への取り組み強化、それに伴う日本のアート産業拡大への貢献が期待される。

(竹下 智)

※野村週報2021年2月22日号「資本市場の話題」より

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