2020年、スーパーコンピューター「富岳」を活用した新型コロナウイルスの飛沫・エアロゾル拡散モデルを構築したことが、見えないウイルスの動きを可視化したとして大きな反響を呼んだ。

 このように、近年では莫大なデータを分析・活用するニーズが増加し、コンピューターの処理能力の向上が求められるようになっている。コンピューターは内蔵される半導体を微細化することで、処理能力を向上させてきたが、技術的な限界は近いとされている。こうした状況の下、新たな構造で高速処理が可能な量子コンピューターの開発が進められている。

 量子コンピューターは量子特有の動作を利用することで、従来のコンピューターでは計算に何万年もかかり、解決困難とされた問題を解決する可能性を有している。解決困難な問題の代表例としては、「巡回セールスマン問題」が挙げられる。セールスマンが複数の都市を、一度ずつ全て訪問して戻ってくるときの移動距離が、最小になる経路を求める問題である。都市数が少なければ容易に解決できるが、30都市を超えると組み合わせは天文学的な数となり、1秒間に44.2京回の計算を行える「富岳」を用いても、途方もない時間が必要になる。このような組合せ最適化問題など、特定の問題に対して、量子コンピューティング技術は強みを発揮するとされており、新たな構造の量子コンピューターの開発だけでなく、量子コンピューターの仕組みをデジタル回路上に疑似的に再現する、疑似量子コンピューターの研究も進められている。

 富士通は、疑似量子コンピューターを使って自動車運搬船の積み付け計画の作成支援を行っている。その他にも、デンソーは走行する車両に量子コンピューターが進行経路を指図することで渋滞を解消する実験に取り組む等、企業での活用が徐々に始まっている。また、日本電信電話やIBMなど、ハードウェアの開発で先行する企業では、量子の動作制御や計算結果の誤り訂正など、技術的な課題に取り組んでいる。

 今後研究が進展し、量子コンピューティング技術が確立されれば、暗号技術(暗号作成や解読)や人工知能、量子化学計算を用いた新素材の開発等のように、産業や社会に飛躍的なインパクトを与える日が訪れるかもしれない。

(投資情報部 大坂 隼矢)

※野村週報 2022年2月28日 号 「投資の参考」より

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