中国企業の債務問題と新型コロナ禍

 米国で量的金融緩和の縮小が開始され、インフレ懸念から量的緩和の終了時期を前倒す動きも出ている。安全資産への資金シフトや新興国・地域から米国への資金還流が起こりつつあり、資金が動く契機、材料として政治的リスクが取り上げられる可能性に注意が必要だろう。

 通年のリスクには、中国の不動産企業のドル建社債の債務問題が挙げられる。中国当局が関与する形で債務再編が行われるが、不動産市場の調整に伴う景気減速懸念の中では、当局が大幅な債務減免を海外債権者に要求しかねない。債務再編協議が長期化し、金融市場では対中投資、対新興国市場投資への警戒が高まる可能性がある。仮に、中国当局が大幅な債務減免を含む債務再編を強行すれば、全額の元利払いを要求し、訴訟に持ち込もうとするホールドアウト債権者が出現しかねない。米国での裁判となる場合、米国の裁判所が中国当局の関与した債務再編を認めない判決を下す可能性がある。その際、中国政府が、判決について政治的意図があるとして、反発し、米中対立の火種になるリスクには注意が必要だろう。

 2022年1~3月期のリスクとして警戒すべきは、新型コロナウイルス・オミクロン株の感染流行だろう。移動や経済活動が再び制限される場合、景況の下振れリスクと供給不安から生じるインフレリスクが同時に発生し、各国・地域中央銀行の金融政策の舵取りを難しくさせるだろう。各国で政権批判が高まる点にも留意したい。

 また、発展途上国のワクチン接種をグローバルに支援しない限り、感染が繰り返される中で今後も変異株が発生するだろう。既存のワクチンが効かない耐性を持つ変異株が発生すれば、先進国でも懸念が高まりやすい。新たな変異株が発生する可能性は、通年のリスクとなるだろう。

 この他、1~3月期のリスクとしては、北京冬季五輪の外交ボイコットなどで米中の政治的対立が続くと見られる。さらに、軍事的緊張として、ウクライナ、ベラルーシにおけるロシアの強硬姿勢が対ロ金融制裁や世界的なリスク回避(株安、債券利回り低下、円高、金価格上昇)をもたらすリスクがある。

仏米中の政治イベントに注目

 韓国大統領選挙(3月9日)において、政権交代となる場合、対北朝鮮政策が変わり、北朝鮮の反発が予想される。核実験や弾道ミサイル発射など北朝鮮の軍事的挑発が再開され、韓国からの資金逃避や円高をもたらすリスクに注意したい。

 4~6月期、7~9月期には、フランス大統領選挙(第1回投票:4月10日、決選投票:4月24日)がある。現状ではマクロン大統領が優勢で、EU(欧州連合)懐疑派候補者の乱立も有利に働くと見られる。とはいえ、選挙が近づく段階でEU 懐疑派(右派)の候補との争いになる場合、一時的にフランス国債の利回り上昇などの形で市場の緊張を高めることもあるだろう。ただし、直後の下院選(6月中)では、右派が過半数を獲得する可能性は低く、右派大統領が誕生してもEU・ユーロから離脱することは困難だろう。

 この他、オーストラリア総選挙(5~9月の間に実施)、フィリピン大統領選挙(5月9日)では親中政権が発足する場合、オーストラリアの原潜導入の見直しや南シナ海への中国の進出を促すと見られ、米中対立の火種になりかねないだろう。

 国内では参議院議員選挙(7月中)が行われる。与党が過半数を維持するかに市場の注目が集まるだろう。さらに、選挙後の経済政策として、金融所得課税の税率引き上げや日本銀行総裁人事が市場の関心事項となろう。

 10~12月期には、米国で中間選挙(11月8日)が行われる。バイデン米大統領の支持率低迷を踏まえると、与党・民主党が上下院のいずれかで過半数を失い、23年以降は、バイデン政権の経済政策の実現が困難になる展開が予想される。さらに、支持率回復のため中間選挙前に企図されるバイデン政権の経済政策のうち、財政出動や多国間通商協定の実現は民主党内の対立により実現が難しいと考えられるが、反トラスト法に基づきFTC(連邦取引委員会)・司法省が大手IT 企業を提訴する可能性や外交上の対中強硬姿勢には注意したい。

 中国では共産党全国大会(10月中)が開催され、習近平体制続投の公算が大きい。続投を確実にするため、格差是正に向けた一部セクターに対する当局の締め付けや米国等への対外強硬姿勢が続くだろう。

 新興国ではブラジル大統領選挙(10月中)で左派に政権交代する場合、トリプル安(ブラジルの株安、国債利回り上昇、通貨安)のリスクが生じる。他の中南米左派政権への影響も注意したい。

(吉本 元)

※野村週報2022年新春号「内外政治」より

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