新型コロナワクチンとして認知が広まったmRNA 医薬品の発展性に注目したい。

 老化などによる遺伝子情報のエラーから正常なタンパク質を産生できなくなった疾患を、正常なmRNA を投与して治療するmRNA医薬品は、次世代の遺伝子治療薬として有望視されている。既存の医薬品と比べ、有効性や安全性が高いと期待され、迅速な開発・製造が可能という特長をもつ。

 mRNA医薬品は、新型コロナワクチンのように疾患予防に用いられる場合と、がんなどの難病治療に用いられる場合がある。コロナ禍において、mRNAワクチンは臨床試験で高い感染予防効果を示し、他のワクチンに先行して使用を許可された。mRNAは不安定で、常温ではすぐに壊れてしまうため、超低温で保存・輸送するためのインフラ整備という物流上の課題があったが、コロナ禍における各国政府の後押しもあって超低温物流の整備が進み、mRNA医薬品として初の実用化に至った。

 mRNA医薬品は難病治療でも、既存の医薬品では治療できなかった多くの患者を救えると期待されている。現在開発されているmRNA 医薬品には、各種ウイルス感染症の予防ワクチンと並んで、がん治療薬が多い。がん治療では、がん細胞固有のmRNAを人工的に合成して投与し、体内でがん細胞の目印を大量に生産させ抗がん免疫を活性化することで、がん細胞を排除することを目指す。一部の開発品では、すでに臨床試験で良好な成績が出始めており、今後数年で複数の製品が実用化に至る見込みである。がんの他にも、先天的な遺伝子異常によって発症する遺伝性疾患の治療薬への応用が試みられている。

 今後mRNA 医薬品がより多くの患者に適用されるためには、疾患のある局所に薬剤を送達させる技術や、常温で輸送可能な製剤技術の開発、製造コストの低減などが課題となる。新型コロナワクチンをはじめとするmRNA医薬品のパイプライン開発で日本企業は欧米企業の後塵を拝したが、製剤化や製造面などの周辺技術の開発では一定の存在感を示せている。日本企業は、量産などに必要な核酸、酵素合成、油脂化学などの技術を蓄積しているためである。こうした周辺領域を皮切りに、今後mRNA医薬品市場において日本企業が存在感を高めていくことに期待したい。

(フロンティア・リサーチ部 和田 浩志)

※野村週報 2022年4月4日号「新産業の潮流」より

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