ラグジュアリーレザーブランドとして名高いエルメスが、マッシュルームレザー製のバッグを発表し、話題になっている。
アパレル業界では環境負荷の観点から、商品廃棄時の二酸化炭素排出や埋め立ての削減が課題となっている。この影響を大きく受けているのが、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン樹脂など石油由来の成分を原料とするフェイクレザーである。フェイクレザーは、アニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から利用が推進されてきたが、環境負荷が高いことから、アパレル業界は板挟みの状況に陥っている。
そこで今、注目されているのがマッシュルームレザーである。その名の通り、キノコの菌糸を原料とすることで、二酸化炭素の排出を抑制でき、生分解性も高い次世代のフェイクレザーである。先行する生地製品は、Ecovative 社(米国)の「Forager」、Bolt Threads 社(米国)の「Mylo」などがある。
牛1頭を生育するのに2~3年かかるのに対し、マッシュルームレザーは数日~数週間で生地にできるという利点がある。一定の生産規模を確保できれば、中級のアニマルレザーと同等の価格で販売できるという試算もあり、生産性と経済性を両立し得る新素材として期待が高まっている。
エルメスは、MycoWorks 社(米国)とマッシュルームレザー生地「Sylvania」を共同開発し、バッグの商品化にこぎつけた。この取り組みにより、マッシュルームレザーはラグジュアリーブランドにも採用できる品質であることが証明され、アパレル業界での利用加速が期待されている。
既にアディダスはシューズで、ルルレモンはヨガマットやバッグでマッシュルームレザーを用いた製品を発表している。今後、様々なアパレルブランドでマッシュルームレザーを使用した皮製品が販売される可能性がある。
マッシュルームレザー以外にも、環境負荷の低いアパレル新素材は開発されている。日本のSpiberは、植物由来の原料をもとに微生物発酵を経て製造する人工タンパク質素材「Brewed Protein」を開発、ゴールドウインと組みアウトドア用アパレルなどを商品化している。今後、環境負荷の低い新素材の活用がアパレル業界で一段と広がることに期待したい。
(フロンティア・リサーチ部 杉本 佳美)
※野村週報 2022年5月2・9日号「新産業の潮流」より