個人投資家にとって、避けては通れないのが「税金」のこと。素朴な疑問を、大手町トラストの折原税理士に聞きました。

Q.別々の証券会社における特定口座(源泉徴収あり)での譲渡損益相殺のため、所得税の確定申告をしようと考えています。その際、住民税のみ「申告不要」を選択することができると聞きました。どのような意味があるのでしょうか。

A.住民税は「申告不要」を選択することで、国民健康保険料等の負担増にならない可能性があります。但し、2023年度分(令和5年度分)までの制度です。

 住民税や国民健康保険料等について、所得税とは別の計算方法を選択したい場合には、所得税及び住民税の申告をそれぞれ行うことができます。所得税の確定申告をした場合、所得税の確定申告の情報に基づき住民税や国民健康保険料等が計算されます。一方で住民税の確定申告を行った場合は、住民税の確定申告の情報に基づき住民税や国民健康保険料等が計算されます。

国民健康保険料等への影響を考えて住民税は「申告不要」を選択するケース

 国民健康保険料等は住民税の算定の基礎となる所得金額(前年の所得金額)によって増減します。所得税の申告をして、上場株式等の譲渡益・配当等と譲渡損(又は前年からの繰越損失)を相殺し、所得が残るときは国民健康保険料等の負担が大きくなります

 このような場合に、住民税については、上場株式等の譲渡益・配当等と譲渡損(又は前年からの繰越損失)を相殺しない旨(申告不要)の申告を別途することで、国民健康保険料等の負担増加にならない可能性があります

前提

・国民健康保険に加入している

・その年の上場株式等の譲渡損益(特定口座源泉あり)
 A証券:400万円
 B証券:△100万円

※計算を単純化させるために税率及び料率は以下のものとして仮定します
 所得税:15%
 住民税:5%
 国民健康保険料:9%


①所得税の申告のみを行う場合

所得税
A証券の譲渡益400万円とB証券の譲渡損100万円を相殺することにより、15万円(100万円×15%)の還付を受けることができます。

住民税
A証券の譲渡益400万円とB証券の譲渡損100万円を相殺することにより、5万円(100万円×5%)の還付を受けることができます。

国民健康保険料
株式譲渡所得300万円(400万円-100万円)が住民税の総所得金額等に加わり、国民健康保険料の負担が27万円増加します(300万円×9%)。

まとめ
20万円の還付に対して、国民健康保険料が27万円増加し、7万円の負担増となります。
所得税 → 還付金15万円
住民税 → 還付金5万円
国民健康保険料 → 負担増27万円 

②所得税と住民税、両方の申告を行う場合(住民税はA証券とB証券の譲渡損益を相殺しない旨の申告)

所得税
A証券の譲渡益400万円とB証券の譲渡損100万円を相殺することにより、15万円(100万円×15%)の還付を受けることができます。

住民税
株式譲渡所得を住民税申告において記載しないため、還付はありません。

国民健康保険料
株式譲渡所得を住民税申告において記載しないため、国民健康保険料は増加しません。

まとめ
15万円の還付を受け取ることができます。
所得税 → 還付金15万円
住民税 → 還付金なし
国民健康保険料 → 負担増なし

次回(令和5年度分)が最後の年に

 平成29年度税制改正により、上場株式等の配当所得等について、「所得税」と「住民税」のそれぞれで納税者が有利となる課税方式を選択することができることが明確化されています(例えば、所得税では「申告分離課税」を選択し、住民税では「申告不要制度」を選択すること等が可能)。

 しかし、令和4年度税制改正により、「所得税」と「住民税」で課税方式を一致させる改正が行われました。この改正に伴い、上場株式等の譲渡損失の損益通算と繰越控除の適用要件が「所得税」と一致するよう規定の整備が行われ、その他必要な措置も講じられました。

 令和6年度分以後の個人住民税について適用されます(所要の経過措置あり)。そのため、次回(令和5年度)が 「所得税」と「住民税」のそれぞれで納税者が有利となる課税方式を選択することができる最後の年となります。

※本解説は令和4年4月に施行されている法律等に基づき作成しております。個別の税務の詳細については、税務署や税理士等にご相談ください。

ご投資にあたっての注意点