
食品業界:短期は原材料高がコスト増
コロナ禍からの世界各国での消費活動再開を受けて需要が強いうえに、労働者不足による供給不安により需給がタイト化したため、世界的にコモディティ市況高が続いている。ウクライナ情勢、円安進行も加わり、国内のコモディティ市況高が影響して、国内でのコストインフレ懸念が高まっている。そのため、2022年度は原材料高が想定され、食品メーカーにとって国内では1度目の価格改定に留まらず、2度目の価格改定をできるかが焦点になってこよう。それに対して、海外は国内に比べて価格改定をしやすく、すでに複数回の価格改定を実施している企業も多く、原材料高を消費者に価格転嫁できる市場であると言えよう。そのため、国内の売上構成比が高い食品メーカーは原材料高の影響を吸収しきれず、厳しい事業環境が続く可能性が高いと考える。
しかし、過去を振り返ると原材料高の局面は食品メーカーの業績が伸長するケースが多かった。それは価格改定やインフレが生じるからである。日本では、コストプッシュ・インフレが主だが、それでも、原材料を含めた製造コスト、数量影響などを加味して価格改定幅が決められるため、数量減が大きくなければ、価格改定は利益増に繋がりやすい。

22年度はほとんどの食品業界のカテゴリーにおいて価格改定が発表されており、その中でも主食カテゴリーで先駆けて価格改定を実施したのが山崎製パンである。小麦粉価格の上昇を受けて、22年1月に食パンや菓子パンの価格改定を実施したが、パン製品の販売は価格改定後の1~4月も堅調に推移した。市場では節約志向が加速していると言われているが、食パンや菓子パンにおいては大きな数量減がみられておらず、消費者には一定程度の価格上方改定への耐性があると推測する。
ただ、現在足元で実施されている価格改定はウクライナ情勢によるコモディティ価格の上昇や円安進行を踏まえたものではなく、更なるコストプッシュ・インフレが進み、価格改定の波が22年度下期に再び訪れると考える。
わらべや日洋HDの海外成長力に注目
日本の食品メーカーは、国内では食品価格の改定が難しいうえに、少子高齢化の進行もあり、今後の需要拡大は限定的であろう。一方、海外では新たな地域への拡大余地があることに加え、海外の所得増に伴う需要拡大が見込まれるため、中期的な成長拡大が期待できよう。野村では、国内の原材料高を価格改定によって吸収することは困難であり、短期的には厳しい事業環境が続くものの、中期的には海外成長力を有している米飯ベンダー企業であるわらべや日洋ホールディングス(以下、わらべや日洋HD)に注目している。
わらべや日洋HDは、セブン-イレブン・ジャパン(以下、SEJ)向け米飯ベンダーであり、SEJ向け売上高が80%程度を占める。国内では常温のおにぎりや幕ノ内弁当、かつ丼やビーフカレーなどチルド弁当を販売している他、米国ではサンドイッチやブリトーなどの軽食を販売している。

国内では、SEJ の3月既存店売上が前年同月比0.8%増と、九州フェアなどが奏功したことにより、わらべや日洋HD の主力商品群である米飯類などが増収となった。21年10月に価格改定を行った炭火焼牛肉カルビ弁当は販売数量が落ち込んだが、様々なフェアを通じた商品価格改定は消費者に受け入れられていると考える。ただ、足元で急上昇している水道光熱費を吸収するほどの価格改定を実施できておらず、次のリニューアルのタイミングで価格交渉を行う必要があろう。
海外では米国のセブン-イレブン・インク(SEI)向けにハワイ及びテキサス州で事業展開をしているが、新たにバージニア州の工場を24年に稼働予定。セブン&アイ・ホールディングスの子会社であるSEIがスピードウェイを買収したことがわらべや日洋HD の大きな転換期になるだろう。その理由は、セブン&アイHDは日本で培ったSEJ のノウハウを米国のSEI へ横展開することを考えており、日本だけでなく、米国でも商品開発力の評価が高いわらべや日洋HD がセブン&アイHD の米国展開に重要な役割を担うと考えられるからである。
22.2期の国内の営業利益率2.1%に対して、海外の営業利益率は11.9%と収益性に大きな差がある。野村では22.2期を起点に24.2期までの営業利益は年率10%成長を予想する。短期的にはエネルギーコストを含む原材料高が厳しく、国内の価格転嫁に時間を要するが、収益性が高い海外事業の売上拡大に伴い、利益成長をけん引することを期待したい。
(エクイティ・リサーチ部 迫間 正)
※野村週報2022年5月23日号「産業界」より