
拮抗する上下双方向のリスク
5月18日公表の2022年1~3月期GDP(国内総生産)1次速報値を踏まえ、22~23年度の日本経済見通しを改定した。実質GDP 成長率は、21年度(実績)の前年比+2.1%に対し、22、23年度がそれぞれ同+3.2%、+1.7%と予測する。

前回4月5日時点の見通しとの比較では、21年度実績が0.2%ポイント上振れたのに対し、22、23年度はそれぞれ0.4%ポイント、0.1%ポイントの下方修正となる。
21暦年及び21年度の日本経済は、停滞色の強い展開を辿った。実質GDP成長率は、21年1~3月期、同7~9月期、22年1~3月期がそれぞれ前期比マイナスとなり、1四半期おきに前期比成長率のプラス、マイナスが入れ替わる格好となった。経済成長の停滞を招来した要因は、国内における新型コロナウイルス感染症拡大が繰り返され、家計支出を中心とする経済活動の停滞を招いたことに加え、半導体不足などの供給制約によって輸出の持ち直しが妨げられた点にある。これらの要因が今後解消に向かい、安定的な成長軌道への復帰が実現するかどうかが、日本経済が差し当たって直面する課題であると言える。
22、23年度実質経済成長見通しが前回比下方修正となる主因は、財貨・サービス輸出の下方修正である。財貨・サービス輸出の22年度前年比は前回比2.7%ポイントと比較的大幅な下方修正となる。従前の半導体不足を中心とする供給制約の影響が長期化しているほか、「ゼロコロナ戦略(厳格な感染対策)」に起因する中国の経済成長下振れの影響が現れてくると予想する。輸出下振れは、輸出との連動性の高い民間企業設備投資(22年度前年比が前回比2.7%ポイント下方修正)にも影響すると予想する。

日本経済全体では、感染症禍からの経済活動再開の影響が実質民間消費を押し上げる形となり、22年4~6月期、7~9月期においては実質GDP が前期比年率で+5%を上回る成長を記録すると予想する。しかし、中国のゼロコロナ戦略長期化に加え、金利上昇やインフレ加速に起因する海外経済の想定以上の成長鈍化や、国内での「体感物価」上振れに起因する家計心理、購買意欲の下押しなど、スムーズな経済活動再開を妨げる下方リスクも山積している。
円安進行下でも金融政策は現状維持
コア(生鮮食品を除く総合)消費者物価上昇率は、22、23年度において、それぞれ前年比+2.4%、+0.9%を予想する。前回見通し比では、原油価格想定の上方改定や食品を中心とする値上げの動きの広がりを反映する形で、22年度が0.2%ポイントの上方修正となっている。四半期ベースで前年比がピークとなる22年7~9月期の上昇率も、前回見通し比0.2%ポイント高い+2.6%に達すると予想する。一方、2%を超えるコアインフレ率は、経済活動再開に後押しされた経済の持ち直し基調の下でも定着しないと判断される。

22年4月27~28日の日本銀行金融政策決定会合で決定・公表された「経済・物価情勢の展望(2022年4月)」においては、消費者物価(除く生鮮食品)前年比の政策委員見通し中央値が22年度について+1.9%と、前回1月比で0.8%ポイント上方修正され、2%の物価安定目標に迫る値となった。一方で、23、24年度については、ともに+1.1%となり、2%に近い物価上昇率が持続的ではないと認識されていることが示唆された。日銀の物価見通しは、エネルギー、食料の押上げ寄与剥落とともにコアインフレ率が低下していくとの野村見通しに近いものであると考えられる。
米国を中心とする海外市場での市場金利上昇と円安の進行を受け、日銀が金融政策の修正を余儀なくされるのではないかとの見方が依然根強い。
日銀は、エネルギー価格上昇を主因とする持続性に欠ける物価上昇の下では、資源価格上昇が実体経済に対してむしろ下押し圧力を及ぼす可能性があるとの判断から、「現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことで、経済活動をしっかりと支えていく必要がある」との姿勢を崩していない。23年度末にかけて、現行の金融緩和政策が変更される可能性は低いと考えられる。
(経済調査部 美和 卓)
※野村週報2022年5月30日号「焦点」より