ESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)が浸透し始め、官民を挙げた食の「アップサイクル」への取り組みが活発化している。オイシックス・ラ・大地は、フードロス解決型の食ブランド「Upcycle by Oisix」を立ち上げた一方、東京都は5月31日に、2050年までに「食品ロス実質ゼロ」を目指し、フードテックを活用した食のアップサイクルを都と共同で実施する事業者の公募を開始した。

 アップサイクルとは、本来不要となったものに新たな価値を付与・提供する取り組み。日本では古くから、廃棄するホタテの殻でチョークを製造するなど、「もったいない」の文化に根差したテーマであるが、ESGやSDGsが盛り上がり、グローバルで注目を集めるビジネス分野となっている。

 海外投資家の当分野への関心も高く、最近では、食品廃棄物を動物用飼料に変換するプラットフォーム(需要者と供給者を結ぶネットワーク)を運営するDo GoodFoods(米国)が1億6,900万ドルを、麦の収穫で発生した藁から食物繊維等の栄養成分を取り出すComet Bio(英国)が2,200万ドルを、それぞれ資金調達した。

 注目が高まる一方で、アップサイクルの課題は少なくない。特に開発された食品の多くが類似製品と比較すると高額であり、消費者のエシカル思考(倫理的思考)に依存しているのが現状である。開発製品が高額になる主な理由は、主原材料である食品廃棄物の効率的な確保が難しい点にある。

 食品廃棄物等を「供給」する食品メーカーや食品小売・外食企業からみると、廃棄するものと供給するものを別途仕分け、保管するのはコスト要因でしかない。また、各工場や店舗などから供給される量も限られ、アップサイクルメーカーは広域での調達が必要となり、調達コストが嵩む。

 このような課題解決に向けた一つの方法は、日々、食品廃棄物を生み出している大手食品メーカー自身の当分野への参入である。自社製品を製造した際に発生する廃棄物を原材料とし、既存物流網を活用することにより、最もコストのかからないアップサイクル食品を開発・提供が可能となる。

 現在、黎明期にあるアップサイクル市場の需要側のすそ野を拡げて成長期に繋げるために、既存の食品供給網を活用した新たな取り組みが嘱望される。

(野村アグリプランニング&アドバイザリー 鈴木 拓実)

※ 野村週報2022年6月20日号「アグリ産業の視座」より

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