社会貢献に留まらないESG

 化粧品・トイレタリー業界においては、環境・社会・企業統治(ESG)は社会貢献に留まらず、企業イメージやブランドイメージの向上に向けたマーケティングの一部と言っても過言ではない。それ故、各社の取り組みは先進的で、消費者、従業員などあらゆるステークホルダー(利害関係者)向けにESGのビジョンが開示されている。

 特に注目したいのがユニ・チャームの動きで、使用済み紙おむつから上質パルプを資源化し、再び紙おむつに使用するという画期的なリサイクルに取り組んでいる。また、花王、資生堂なども注目で、容器の再利用事業に取り組んでいる。いずれも実現すればESG 目標と収益貢献を両立しうる。例えば、シャンプー容器の単価は500ml ポンプ付きで200円程度と、製品原価に占める割合は大きい。そのため、容器原価が減少すれば大幅なコストダウンに繋がる。

 また、化粧品企業などではダイバーシティ(経営人材の多様性)で先行しており、目標とするROE(自己資本利益率)や資本コストなどの開示が着実に増えている。

形式でなく実効性が評価軸

 ガバナンス(企業統治)に目を向けると、大手各社では独立社外取締役は一定割合に達し、形は整ったといえる。今後はその実効性をいかに高め、企業価値の向上をどのように目指すのかが問われよう。

 上記の観点からは次の3点が注目点として挙げられる。第一に、独立社外取締役の経歴や選任理由に一段と目を配りたい。実際、化粧品企業では女性活躍推進に強い社外取締役を選任するケースが多くみられ、トイレタリー企業では資本効率化やグローバル経営の知見を持った人選が多い印象である。第二に、外部評価機関等からの評価も重視したい。同族経営企業の場合は外部の資本提供者から評価されにくい側面があるため、第三者機関による評価は有用だろう。第三に、実効性を高めるうえで報酬と連動させることは有効である。花王、資生堂では役員報酬の長期インセンティブ部分に外部のESG 評価を取り入れており、透明性確保の観点で高く評価される。

コロナ後に向けた新戦略

 新型コロナを契機に人々の生活様式や衛生意識が変化した。企業経営ではこの変化を踏まえ、衛生・健康関連製品などの①海外進出の加速、売上減に対応する②構造改革、非接触に対応する③デジタル化が進められている。

 第一の海外進出では中国市場を深耕するだけでなく、東南アジアや欧米への進出へと拡がりを見せている。例えば、ユニ・チャームではインド市場の開拓が軌道に乗り、EMEA(欧州・中東・アフリカ)進出が視野に入る。ライオンは東南アジアの販路拡大に着手し、小林製薬では2020年9月の米Alva社買収を契機に北米進出が進んでいる。

 第二の構造改革では資生堂の打ち手が際立つ。21年2月にパーソナルケア事業の譲渡を発表し、同年4月にDolce& Gabbana社とのライセンス契約の一部解消を発表した。同年8月には「bareMinerals」「BUXOM」および「Laura Mercier」の譲渡も発表した。花王でも動きがみられる。20年12月発表の中期計画「K25」においてライフケア事業の立ち上げを発表し、同時に化粧品とトイレタリーのブランドをそれぞれ統廃合すると発表した。

 第三のデジタル化では、新型コロナを契機にあらゆる次元で加速がみられる。現在は主に販促効率化が中心だが、大手各社はEC(電子商取引)販路開拓や新規事業創出に向けたデジタル活用に注力している。

 化粧品大手は遠隔カウンセリングと製品のパーソナライズに向けたインフラ整備を進めている。ただし、香りや使用感といった体験部分をどう表現するかは課題だろう。トイレタリー大手では、花王が新たにプレシジョン・ライフケア構想を立ち上げた。具体的には、同社のRNA(遺伝子情報の一種)解析技術を用いて顧客ごとに最適な製品やサービスを提供する試みである。RNA解析データを蓄積した情報プラットフォームを構築し、情報基盤の活用による収益獲得、ならびに顧客にとっての最適解として当社製品が選ばれることを目指す。22.12期にサービスを開始する予定で、先ずは化粧品事業とヘアケア事業で展開する。その後はパートナー企業の拡大により23.12期から本格的に業績に貢献していく見通しとされている。

 ただし、デジタル化による商品カスタマイズは諸刃の剣となる可能性もある。デジタル化で消費者の合理的な商品選択が浸透することにより、マス商品の寿命短期化が起こるかもしれない。

(エクイティ・リサーチ部 成清 康介)

※野村週報 2022年8月8日号「産業界」より

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