世界第2位の人口を抱えるアジアの大国であるインドでは近年、革新的な製品・サービス開発に取り組む設立10年以内のスタートアップ企業が急速に増加している。インド政府によると、同国内のスタートアップ企業数は、2017年3月時点の700社超から22年7月には7.4万社超へと増加し、米国と中国に次いで世界で3番目に多い。業種別では、情報技術(IT)及びIT 利用型サービスが中心である。

 インドにおけるスタートアップ企業の主な増加要因として、同国政府が16年に開始した「スタートアップ・インディア」と呼ばれる取り組みが挙げられる。スタートアップ・インディアの主な実績として、①スタートアップ企業の所得税を3年間免除する措置の導入、②スタートアップ企業に間接的に投資する1,000億ルピー(22年8月1日時点の換算レートで約1,700億円)規模のファンド(基金)の設立、③スタートアップ企業と投資家をつなぐオンライン・プラットフォームの提供等がある。

 スタートアップ企業の資金調達に関して、プライベート・エクイティ(PE)ファンドも重要な役割を担っている。PEファンドとは、高い専門性を持つ投資会社が、機関投資家や個人富裕層等から調達した資金を用いて、主に高成長の未上場企業に投資するものである。近年、インドを対象とする国内外のPE ファンド数及び投資額は増加傾向にある。

 インドでは、このように資金調達環境が改善する中、企業価値評価額が10億米ドル以上の非上場スタートアップ企業である「ユニコーン企業」も増加している。インド政府によると、ユニコーン企業数は22年5月までに計100社に達した。同国のユニコーン企業は、さらなる成長機会を追求するため、新規株式公開(IPO)を選好する傾向があるとされる。実際に、これまでに数社のユニコーン企業がIPO を実施し、多くの投資家の関心を集めてきた。

 足元では、資金調達環境が悪化しつつあるものの、インドは国内外の投資家から中長期的な観点で発展が期待されている。今後、同国がユニコーン企業を含むスタートアップ企業の増加を通じて、資本市場のさらなる発展や、イノベーション主導の持続的な高い経済成長につなげることができるか注目したい。

(NOMURA, Singapore 北野 陽平)

※野村週報 2022年8月15日号「資本市場の話題」より

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