従来ビジネスを揺るがす構造変化

 家庭用ゲーム機のビジネスモデルが大きく変わりつつある。コンテンツ消費の主流は、買い切り型のパッケージソフトやダウンロードソフトから、オンラインで継続プレイを楽しむGaaS(Games as aService)に移ってきた。2010年代前半に現れた第8世代コンソール(PS4など)では、オンラインプレイ普及という動きはあったが、「ゲーム機本体+買い切り型ソフト」という収益モデルは従来通りであった。しかし、現行の第9世代コンソール(PS5など)は基本プレイ無料のGaaS との共存が前提となっている。

 基本プレイを無料として、追加コンテンツや定額課金など買い切り型以外の形で収益を創出するGaaS の台頭は、ゲーム機本体(コンソール)を中心とするエコシステムにプレイヤーを囲い込むという、従来ビジネスを揺るがすことになる。GaaS はいわゆる「メタバース」との関連性も強いため、今後はグローバルIT 大手を含む多くの企業がこの領域に参入してくることになろう。一連の流れの中で、家庭用ゲーム機という閉じた市場で成立していたコンソール企業の優位性が低下していくと考える。

 かつてはゲームコンテンツ市場の大部分を買い切り型ソフトの売上が占めていたが、21年には買い切り型ソフト以外の売上が過半を占めるに至った。18年に大ヒットしたEpic Games の「Fortnite」はその先行的な事例と言える。GaaS 初期においては、PS4など旧世代ハードが既に普及していたため、コンソール企業はこれを好影響として取り込むことができた。

 しかし、GaaS の普及によりハード購入がゲームを楽しむための第1ステップではなくなっている点を軽視すべきではない。我々は、プラットフォームとしての地位が低下していくことから、今後は家庭用ゲーム専用ハードの市場規模が過去のピークを超えていくことは難しいと考える。

 一方、買い切り型ソフトであってもGaaS であっても、人気タイトルの持つビジネス上の重要性に変わりはない。そのため、自社IP(知的財産)の有効活用に取り組むゲームソフト企業にとっては、GaaS を活用した新たな事業機会が増えてきたとも言えるだろう。

ソニーGは ソフト専業転身も選択肢

 ソニーグループ(以下、ソニーG)のゲーム事業は同社の22.3期営業利益の約30%を占めた。PS4の成功により、ゲーム事業はこれまで同社の成長ドライバーとして重要な役割を担ってきた。しかし、我々はGaaS の出現による市場環境の変化で、23.3期から26.3期にかけてソニーGのゲーム事業の利益が伸び悩むと予想する。

 22年5月に開催された事業説明会で、ソニーG は26.3期の自社制作ソフト( ファーストパーティー) の約50 % をPlayStation 以外のPC・モバイル向けとする計画を発表した。現状ではPlayStation向け売上が90%以上を占めているため、大きな方針転換である。

 近年、PS4向けソフトでは「God ofWar」「Spider-Man」「Last of Us II」「Ghostof Tsushima」などファーストパーティ―のヒットが続いている。また、20年8月発売の「Horizon Zero Dawn」を皮切りにPC 向けソフト販売にも着手している。そのため、野村でもソニーGのファーストパーティ―の利益貢献が着実に増加していくと見ている。

 ただし、ファーストパーティソフトの利益増は、他社制作ソフト( サードパーティー)とネットワークサービスの利益減により打ち消され、ゲーム事業全体で26.3期の営業利益はピークの22.3期を下回ると予想する。サードパーティソフトについては、PS5のプラットフォームとしての地位低下によりソフトメーカーがPS5以外(他社コンソール・PC・スマホ・AR(拡張現実)/VR(仮想現実)端末)への販売を増やすことや、ロイヤリティ率の交渉力低下を想定している。ネットワークサービスについても、PS Plus 会員数の伸び悩みや他のサブスクリプションサービスとの競争激化により、収益性が低下していくと見ている。

 中長期的に、ソニーGはゲーム機ハードウェア事業から撤退し、ゲームソフトの専業メーカーへの転身を図るのも一つの選択肢となるだろう。プラットフォームとしてのゲーム機の重要性がさらに低下していった場合、自社ハードをビジネスとして継続する意味合いが薄れていくためである。ソニーGでは映画や音楽のように純粋なコンテンツビジネスも手掛けていることも踏まえれば、ゲーム事業のソフト化に大きな違和感はないだろう。01年にセガがドリームキャストの製造を終了しゲーム機ハード事業から撤退したが、同社は現在もグローバルにコンテンツビジネスを展開している。

(エクイティ・リサーチ部 岡崎 優)

※野村週報 2022年8月29日号「産業界」より

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