再生可能エネルギーによる電化だけではカーボンゼロ達成が難しい分野において、カーボンゼロを目指すための技術として、カーボンリサイクルが注目されている。

 カーボンリサイクルは、CO2をリサイクルすることを意味する。カーボンリサイクルでは、①排ガスや大気からCO2を分離・回収するプロセスと、②回収したCO2を他の物質(合成燃料や化学原料)に変換するプロセスに区分することができる。

 CO2から作られた合成燃料や化学原料の大半は、エネルギーあるいはプラスチックごみとして燃焼され、CO2は大気に放出される。従って、カーボンリサイクルではCO2源が何かという点が重要になる。

 排ガスのCO2は、火力発電所や製鉄所で化石燃料(石炭や石油)が消費された際に生まれる。そのため、排ガスのCO2を利用するということは化石燃料を利用し続けることを意味し、大気に蓄積する(ペースは落ちるものの)CO2が増え続けること自体は変わらない。カーボンリサイクル製品から大気に放出されるCO2を相殺するには、大気中からCO2を分離・回収することが最終目的であり、排ガスのCO2を対象としたカーボンリサイクルは、移行期の技術である点に留意する必要がある。

 前述したカーボンリサイクルで必要な2つのプロセスは、化学プラントで利用されてきた実績がある。だが、既存プロセスをカーボンリサイクルに適用するとコストが嵩む。カーボンリサイクルを経済的に持続可能な形で推進するには、両プロセスで利用できる新規材料の開発が必要である。

 新規材料の候補として、1997年に日本で初めて開発された金属有機構造体(MOF)が挙げられる。MOF は、金属イオンと有機分子を混ぜて作る、ナノレベルで制御された多孔性物質である。

 MOF では、孔径や表面の性質を自由に設計できるため、目的に応じた様々な機能を調整することができる。例えば、CO2を分離・回収する際のエネルギーを低減させたり、CO2から他の物質を効率的に生成させたりすることが可能であり、カーボンリサイクル向けの最適な材料になり得る。

 長年MOF は大学の研究室に留まっていたが、2010年代半ば以降、世界各地でMOF のスタートアップが増加しており、今後の動向が注目される。

(フロンティア・リサーチ部 横山 恭一郎)

※野村週報 2022年8月29日号「新産業の潮流」より

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