次世代の食料生産に向けて、ゲノム編集技術の活用に注目が集まっている。

 2019年9月に、「ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領」が改正された(最終改正20年12月)。遺伝子組み換えに該当しないゲノム編集技術応用食品の遺伝子変異は、自然界または従来の品種改良で起こる変化の範囲内であるため、任意の届出は求められるものの、安全性審査、表示義務はなしとされた。

 ゲノム編集は、遺伝子組み換えと混同されるケースが多い。遺伝子組み換えは、外来の遺伝子をDNAに挿入するため、自然界では発生し得ない変異を持つ新生物ができる。一方、ゲノム編集は、自然界でも起こるDNAの切断、修復による変異を、標的遺伝子について意図的に発生させる手法である。実は、我々が日頃口にしている食品の多くは、ゲノム編集と同等の過程を経て、品種改良されたものである。従来は、分離育種法、交雑育種法、放射線による突然変異育種法などにより、長い年月をかけ品種改良されてきたが、ゲノム編集技術により短期間での品種改良が可能になった。

 国内では、ゲノム編集技術応用食品の届出が始まっている。筑波大学発ベンチャーのサナテックシードは高GABA(ガンマアミノ酪酸)トマトを、京都大学発ベンチャーのリージョナルフィッシュは肉厚マダイ、高成長トラフグを届出している。大手食品企業も基礎研究を進めており、一般流通に向けた動きが徐々に進んできている。

 しかし、多くの消費者はゲノム編集技術応用食品という言葉を聞いただけで、拒否反応を示すだろう。消費者への啓蒙活動など、超えるべきハードルはまだまだ多い。

 昨今、タンパク質クライシスや環境負荷が叫ばれる中で、動物性食品の一部を植物で代替する潮流がある。しかし、植物の生産においても、大量の土地、水が必要であり、適地には限りがある。ゲノム編集技術の活用による生産効率や収益性の向上、環境負荷の低減が期待されよう。

 将来は、ゲノム編集技術と植物工場や陸上養殖などの新たな生産手法との組み合わせも進もう。多くの食料を輸入に頼る日本においては、将来にわたって安定した食料調達ができる保証はなく、ゲノム編集技術が持続的な食料生産の一助になることに期待したい。

(フロンティア・リサーチ部 坂本 雄右)

※野村週報 2022年 9月5日号「新産業の潮流」より

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