1Q の好決算もあり株価は復調

 商社の事業環境は、欧米の金融引き締め政策により資源価格の先安観が出ている。中国のロックダウン(都市封鎖)の影響や景気減速懸念で4月以降は鉄鋼原料や非鉄など、幅広い資源価格が下落基調となった。一方で、資源の需要国のインドをはじめアジア各国で雨季が終わるなど季節的な要因や中国の景気対策期待もあり、8月には原料炭や銅の市況が上昇するなど一旦の底打ち感も出ている。鉄鋼製品需要が低迷する中で大幅な上昇を野村では見込んでいないが、足元の市況水準は歴史的には高い水準にあり、株価の下支え要因となろう。

 また、非資源分野については、引き続き良好な事業環境が続いている。一部の商品市況は軟化しているが、2023.3 期1Q(22年4~6月期)決算でも自動車や肥料、電力、穀物など幅広い分野で我々の従来予想を上回って推移するなど好調な決算動向が確認できた点は好印象だった。

 商社セクターの株価については、金融引き締め政策による景気鈍化懸念や資源価格の下落に加え、豪州のQueensland州の石炭ロイヤリティの引き上げといった懸念材料が多かったこともあり、6月以降に一旦調整した。一方で、足元は資源価格が復調しているうえに、1Q 決算で非資源分野の好調が確認できたこともあり、今後は堅調に推移すると野村では見込んでいる。

好業績で株主還元期待も高い

 1Q 決算は好調な決算となったが、各社とも景気動向の先行き不透明感を要因に通期業績を据え置いた。一方、1Q の親会社株主利益の通期計画に対する進捗率は33~63%と高い進捗となっている。三菱商事が2Q にかけて業績の上振れ幅を見定める方針を示すなど、今後は通期計画に対する上方修正期待が高まりやすい。また、円安効果による包括損益の改善もあり、株主資本が大きく増加していることで、各社の財務体質が良化している。好調な業績動向や財務体質の改善もあって、追加的な株主還元期待が高まりやすい点も注目したい。

 個別銘柄では、1Q 決算は三菱商事や丸紅、豊田通商が事前の投資家の期待値を考慮しても相対的に良好な決算だったと考えている。特に、三菱商事については、良好な1Q業績を背景とした通期業績の上方修正や追加の株主還元期待の高さもあり、セクター内でも注目の企業だと考えている。また、豊田通商についても、好調な足元の業績動向に加え、24.3期にかけての業績モメンタムの強さから注目している。同社は資源分野の利益構成比が低く、資源価格が下がった際も悪影響が出にくい。また、23.3期は半導体不足による自動車生産の落ち込みが業績の悪影響となっているが、24.3期には半導体不足が解消に向かうことで、鋼板や自動車部品のトレード事業など自動車の生産関連分野の業績回復を見込める。

(エクイティ・リサーチ部 成田 康浩)

※野村週報 2022年9月12日号「産業界」より

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