コロナ禍で電子契約が普及した一方、契約書の作成や管理はいまだに書面をベースにすることが多い。契約フローの電子化の次の潮流として、一元管理システムや作成支援・レビューツールに注目したい。
契約書の管理では、契約書を電子化し、法務部などの特定部署が集約、管理する動きがある。従来、多くの企業では、契約書は紙やPDFで主管部署ごとに保存されてきた。一元管理システムを導入すれば、①契約書の検索の迅速化、②閲覧権限の設定機能による情報管理のコストとリスクの低減、③契約終了期限の通知機能による意図せぬ自動更新の回避などが可能になる。
契約書の草案作成では、最新の法令を自動で反映できる作成支援・レビューツールが普及し始めている。従来の文書作成ソフトは、「誰が」「いつ」修正したかを把握しづらかった。作成支援・レビューツールは、法令の自動反映に加えて、修正箇所が一覧表示されたり、修正履歴を時系列で参照できる工夫がされており、ユーザーの業務効率化やナレッジ(知識)共有が進む。
足元では、契約書作成の特定プロセスに特化したり、契約フロー電子化を広く手掛けるベンチャー企業も登場している。
これらのITツール(オンライン上のシステム)は、連携させることでより効果を発揮する。一元管理システムによって検索が漏れなくできると、過去に締結された類似契約との検討が容易になる。その上で、作成支援・レビューツールを用いれば、最新の法令も反映でき、契約書の正確性が高まる。また、電子契約サービスと連携すれば、契約フロー全体の業務効率化も図れる。こうしたITツールの活用で法務ナレッジの共有が進めば、法務部員間のスキル(技能)格差の縮小にも繋がろう。
従来、締結済の契約書は時折見返す程度の利用に留まっていた。しかし、契約書には自社の経営戦略が反映されており、過去の契約内容を参照すれば、顧客との取引の傾向を読み取ることができる。また、契約内容を分析すれば、顧客毎や全社レベルのリスクを把握でき、顧客対応や経営戦略に活かせるだろう。
一元管理システムや作成支援・レビューツールの導入を契機に、締結済みの契約書という社内の“眠れる”資産が有効活用されることを期待したい。
(フロンティア・リサーチ部 渡邊 洋一)
※野村週報 2022年9月12日号「新産業の潮流」より