中国では近年、大手テクノロジー企業がゲーム会社等に出資してメタバース・プラットフォームを開発するなど、メタバースを巡る投資が急増している。2022年1~4月の投資の件数と金額は、それぞれ58件、81.2億元となり、ともに21年通年の49件、57.9億元から大幅に増加している。

 メタバースは、インターネット上に作られた3次元の仮想空間やそこでのサービスと説明されることが多い。ユーザーは仮想空間における分身(アバター)を使って移動・交流・生活などをする。

 メタバース内で人々が生活するとお金やモノのやり取りが発生するため、現実世界同様の経済の仕組みが必要となる。メタバースでは多くの場合、モノを表象するのは、例えばアート作品が唯一無二であることをブロックチェーン(分散型台帳技術)上で証明する非代替性トークン(NFT)となり、お金は暗号通貨となる。また、それらの移転・記録が行われる基盤は主にブロックチェーンとなる。

 メタバースが、金融機関にとってどのような商機となり得るかは、興味深い論点である。例えば、金融機関がメタバースにバーチャル支店を出店すれば、空間や時間の制限なしに金融サービスを提供できる。

 また、メタバースでは、ブロックチェーン上で一定の要件を満たす場合に自動執行される契約である「スマートコントラクト」を使える場面も増える。例えば、スマートコントラクトで融資や証券取引が自動執行されれば、金融機関の業務の効率化やコスト削減にも繋がることが期待される。一方で、メタバースでは、データ・セキュリティやプライバシー保護等の問題が、現実世界と比べて一層顕在化しやすいといった課題も想定される。

 中国の場合、21年9月以降、中国人民銀行等によりビットコイン等の暗号通貨の決済や取引が全面的に禁止されている。そのため、中国の金融機関や消費者が主たる参加者となるメタバースでは、中国各地で実証実験が進行しているデジタル人民元が主要な決済通貨になり、民間の暗号通貨が主たる決済手段となる他のメタバースとは異なる経済の仕組みになる可能性がある。

 金融メタバースの可能性は未知数である。暗号通貨やデジタル人民元をめぐる動向と併せて、今後が注目される。

(株式会社野村資本市場研究所 王 月)

※野村週報 2022年9月12日号「資本市場の話題」より

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