ウクライナ紛争をめぐる対ロシア経済制裁をEU(欧州連合)は強めています。一方、ロシアは、EUが重要なエネルギー源である天然ガス需要の約40%をロシアに依存していることを利用して、天然ガスを武器にEUへの対抗措置を強化しています。

 ロシアは、ドイツに天然ガスを供給する海外パイプライン、ノルドストリーム1を点検するため8月31日から3日間停止しましたが、機器に損傷が見つかったとして、修理を理由に稼働停止延長を発表しました。ノルドストリーム1の供給量はすでに従来の20%に削減されていた上に、供給再開時期が不透明なため、供給不足への懸念が一段と強まっています。

 2022年6月におけるEUの天然ガス輸入量は2021年12月比でロシア産が34%減少したのに対して、米国産が63%増と急増するなど輸入を増やしていますが、ロシア産の減少を補うには不十分です。欧州における天然ガス価格は1年前と比べて5~6倍へ急騰しています。EU加盟国は暖房用の需要が増加する冬季に備えて、ガス貯蔵を増やすと共に、天然ガス需要の15%削減に取り組んでいます。しかし、天然ガス供給不足に陥り、ガス、電力などエネルギー価格が急騰、インフレ圧力と景気の下押し圧力が強まって、ユーロ圏経済が、物価の持続的な上昇と経済停滞に同時に見舞われるスタグフレーションに突入するリスクが高まっています。

 このため、通貨ユーロや欧州の主要株価指数であるストックス欧州600指数は軟調に推移し、下値を探る動きが続くと見られます。相場が転換するには、ロシア産天然ガス供給の安定、代替供給先の確保、家計の光熱費上昇の痛みを緩和する財政支援策などが必要になると見られます。

 天然ガスは輸送に生産地と消費地を結ぶパイプラインや、天然ガスを冷却して液化天然ガス、LNGに液化するプラント、LNGを運搬する専用船舶、LNGを気化する装置などの大規模な設備が必要なため、代替供給先を確保するには時間が掛かります。EUはロシア以外の主要ガス産出国から天然ガスをかき集めていますが、アジアなどの天然ガス消費国との取り合いが見込まれます。天然ガス価格は高水準での推移が見込まれ、価格上昇の悪影響が日本などに及ぶ可能性が強まっている点に注意が必要です。

(野村證券投資情報部 服部 哲郎)

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