不動産売却益で業績堅調

 欧米では、当面の景気よりもインフレの抑制を重視する金融政策方針が採られており金利が上昇する方向にある。これに対して、日本では低金利政策が続いている。為替が円安基調となっていることも手伝い国内外の不動産投資マネーが日本の不動産に関心を寄せているため、不動産価格は堅調な推移が見込まれる。東京の大手町では、国が保有するオフィスビル「大手町プレイス」が競争入札を経て売却される予定で、過去最大規模の取引となる見通しである。

 こうした環境ではデベロッパーにとって収益不動産の売却による利益が計上しやすい状態が続くため、野村では大手不動産会社の業績は増益基調が続くと予想する。欧米の金利引き上げの影響で業績の悪化懸念が強まる景気敏感セクターよりも、内需中心である不動産セクターの業績の安定性に市場の注目が集まる可能性があろう。

 業績の安定性に加えて、株主還元強化や新型コロナで業績が悪化していた商業施設やホテルなどの回復期待がある銘柄に注目したい。野村不動産ホールディングスや三井不動産、三菱地所である。

 また、東京建物は、来年度以降に売上計上する予定のマンションプロジェクトの販売契約が早いペースで進捗している上に、REIT など不動産ファンドに売却する予定で開発している物流施設や賃貸住宅などが多く、利益成長の蓋然性が高いと野村では考える。株価バリュエーションの割安さも含めて注目している。

 不動産セクターのリスクとして、主要サブセクターであるオフィスの賃貸需給の悪化が挙げられる。オフィス仲介大手の三鬼商事が公表した8月の東京都心5区のオフィス空室率は、前月比0.12%ポイント悪化し6.49%となったが、今年最大規模の新築ビル「ミッドタウン八重洲」など5本のビルが空室を残して竣工したためである。2022年は9月以降、東京都心5区では大型ビルの新規竣工の予定はなく当面の空室率は横ばい圏で推移する可能性があるが、今後景況感が悪化し、オフィス賃貸需要が増加しないようだと、23年は「田町」「虎ノ門」「麻布台」などで大型ビルが多数竣工してくる見通しのため、東京都心5区全体の空室率は23年には一段と悪化することになろう。

優勝劣敗が進展

 ただし、三井不動産及び三菱地所など個社の状況を見ると、両社は23年に大型プロジェクトを竣工する予定がない。三井不動産は「ミッドタウン八重洲」を含め、空室のある自社ビルのリーシングを進めていくことになる。三井不動産が保有する首都圏のビルの空室率は6月末が4.1%だったのに対して、9月末は「ミッドタウン八重洲」により6%弱の水準まで悪化する可能性がある。とはいえその後はリーシングの進捗で今秋をピークに改善に向かう可能性があろう。三井不動産は23年3月末の首都圏のビルの空室率は4~4.5%程度に改善するとの見方を示している。また、三菱地所は、丸の内に所有・管理するビルの空室率は6月末で4.3%だったが、23年3月には3%程度に回復するという見方を明らかにしている。

 大手が保有するビルは、立地などの競争力がある。たとえ市場全体の空室率が悪化しても、大手の空室率は改善し、低位で安定する可能性があり、オフィス賃貸市場の優勝劣敗の明確化が、大手不動産株のパフォーマンスに寄与すると野村では考える。

 住宅セクターでは、土地及び建築コストの上昇で販売価格の高騰が続いており、需要の停滞が懸念される。都心部では、リーズナブルな価格でデベロッパーがマンションを供給するのが難しくなっており、供給が限定的なことで、マンションの需給バランスは保たれている。一方、戸建住宅については、コロナ禍において強まった「快適な住宅への住み替え」の反動もあって需要が低迷している。今後、住宅各社の値上げと景況感の悪化で需要の停滞が続くリスクがある一方で、木材市況や住設機器の原材料であるアルミや銅の価格がピークアウトすることで、採算維持には不十分と見られていたこれまでの値上げでも、23年以降は採算が改善する可能性がでてきた点には注目したい。

 国内の住宅ローン金利の先行きにも注意を払いたい。米国では、住宅ローン金利の上昇を背景に米国の持家取得需要がピークアウトしており、同事業を展開する住友林業や積水ハウス、大和ハウス工業など大手の海外住宅販売事業が懸念され始めている。国内外で戸建住宅販売市場が停滞する反面、賃貸住宅へのテナント需要及び賃貸住宅への投資需要が堅調という見方が強まり、賃貸住宅建築市場は良好である。住友林業は、米国で戸建販売のみならず賃貸住宅事業を手掛けることで、23.12期以降も高水準の利益を確保する可能性があると野村では考える。

(エクイティ・リサーチ部 福島 大輔)

※野村週報2022年9月19日号「産業界」より

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