世界的なエネルギーや食料品の価格高騰が続く中、産油国且つ食料供給国であるブラジルも物価高に悩まされてきた。その背景には、精製能力の不足のためディーゼルやガソリンなど燃料の輸入依存度が高い上、農産物生産に必要な肥料の8割強を輸入に頼ることなどが挙げられる。

 ブラジルの国営石油会社は、国内の燃料価格を国際価格と連動させる方針を有している。原油価格は6月初旬にピークをつけたものの、依然として歴史的な高水準にあり、国営石油会社はガソリン卸売価格の値上げを続けてきた。

 しかし、国営石油会社は7月下旬にガソリン卸売価格を引き下げた。背景に、10月2日に大統領選を控えるボルソナロ大統領や連邦議会からの圧力があったことは否めない。州レベルでも、天然ガス、電気、通信、公共交通機関にかかる商品流通サービス税(ICMS)の税率引き下げが実施された。さらに、電力配給業者による料金体系の見直しにより電力料金は下落した。

 大統領選に向けた世論調査では、一連のインフレ抑制策による物価の落ち着きを受け、ボルソナロ大統領は劣勢を立て直しつつある。ただし、燃料価格の引き下げや減税は財政負担を伴う。物価高騰の影響を受けやすい低所得者向けに現金給付を増額して財政支出を膨らませた政府に、追加的な刺激策を実施できる余地は限られよう。

 8月の消費者物価上昇率は前年同月比+8.7%と、4月(同+12.1%)をピークに低下傾向にあり、ブラジル中銀は金融引き締めペースの緩和へ舵を切る局面に入っている。4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前年同月比+3.2%と、内需は底堅さを維持している。大統領選を経て新政権がいかに経済立て直しの道筋をつけるかに注目が集まろう。

(投資情報部 野手 朋香)

※野村週報 2022年9月19日号「投資の参考」より

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