米国IRA法とは、制度の概要

 8月16日に施行された米国のInflation Reduction Act(IRA 法)は米国製薬業の反対を押し切って施行された。IRA 法の医療改革案は、2021年9月に下院で提出されたBuild Back Better法(BBB法)から派生した。BBB法はバイデン政権の目玉プログラムであり、総額3.5兆ドルの大型法案であった。しかし2名の民主党上院議員の離反により21年12月には事実上廃案となった。IRA 法はBBB 法の薬価改革をそのまま受け継いだ形となっている。強力な米国製薬業ロビーが完全に敗北した初めての例である。

 IRA 法の主な条項は、①高価なシングルソース薬のMedicare(高齢者および障害者向けの公的保険)の薬価交渉:薬剤費負担が大きい薬剤から順番に交渉対象とする。26年以降から実施され、最初は10品目が対象となる。交渉と記載されているが、強制的な薬価引下げであり、ほとんどの場合25~35%の薬価引下げとなる。②自己負担額の限度額設定:現行法では約3,500ドルの自己負担額を超えると、医療費助成の対象となる。IRA法では2,000ドルが上限となるため、患者にはポジティブ。③インフレ率を超える薬価引上げに対する罰則。

 このうち日本企業の影響が最も大きい項目は①であろう。野村ではアステラス製薬のXtandi が26年に、次に同社のMyrbetriqが27年に、小野薬品工業のOpdivoが28年に薬価交渉対象になると考える。Xtandiは26年1月に前年比35%の薬価引下げ、Myrbetriqは27年1月に同35%の薬価引下げを想定した。Opdivo は28年1月に同35%薬価引下げを想定した。Xtandiは27年8月、Myrbetriq は28年4月、Opdivoは28年12月にそれぞれ米国特許満了を迎えるため、実質的にはジェネリック発売の1年前の薬価引下げとなり、企業価値への影響はそれほど大きくはない。IRA 法では経口剤は発売から9年超後、バイオ医薬品は13年超後から薬価交渉対象になることを考えると、今後は高齢者を対象とした経口剤の開発よりも、若年層を対象とした薬剤か、バイオ医薬品の開発に開発リソースをシフトする企業が日米問わずに増えると考える。

医薬品とともに医療機器に注目

 医薬品産業はインフレ懸念のもと逃避的投資対象として22年上半期はパフォーマンスが好調に推移してきたと考える。特に、相対的にPERが低い武田薬品工業、小野薬品工業、アステラス製薬などが堅調に推移してきた。今後もインフレが継続すると考えると同じ傾向が下半期にも続こう。

 中長期の視点では協和キリンに期待する。協和キリンのアトピー性皮膚炎治療薬KHK4083はP2b(フェーズ2後期)試験においてプラセボ対比効果で標準治療薬Dupixentを凌駕する可能性を示した。P3(フェーズ3)試験では2カ月1回皮下注射投与を検証、現存のアトピー性皮膚炎治療薬では1カ月1回が限界であることを考えると、利便性においても優位になると期待される。P3試験は現在患者登録が中断されているが、より利便性の高い治療計画が採用される可能性が高い。また、9~10月には塩野義製薬のコロナ治療薬S-217622のP3試験結果発表や、エーザイのアルツハイマー型認知症治療薬lecanemab のP3試験結果など大型イベントがあることも注意が必要である。コロナ治療薬のP3試験が成功すれば、日本の承認に続き、P3試験に参加した韓国・ベトナムでの承認も見込まれる。欧米のP3試験にも期待がかかろう。lecanemabは試験が成功しても米国拡販のハードルは残るが、Medicareで保険償還されれば大型新薬となる公算は大きい。

 中長期の成長性という観点では医療機器が有望とみており、特にテルモに注目する。4~6月期決算は売上高が好調な反面、コスト増が大きい印象であった。しかし、コスト増では原料血漿採取事業への参入による10億円の販促費、約20億円の原価増があったほか、未実現利益消去20億円が重なった。下期には原料血漿採取事業の収益貢献、価格転嫁の効果、インフレ費用の軽減が期待できるため、展望は明るい。

 新事業では原料血漿採取事業のみ注目される傾向が強いが、特徴的な新製品が多く投入予定であることがポイント。胸部大動脈瘤用ステントグラフトRelayProは既に米国で好調に推移しており、24.3期にはハイブリッドステントグラフトThoraflex Hybridの米国発売が待たれる。後者は2つの手術が必要だった手技を1つにまとめるため、医療経済性・患者のQOL(生活の質)向上に貢献しよう。野村では1本約3百万円の高額新製品と推定しているため、当社の主力品であるシース1本数千円とは価格帯・収益性も大きく異なる。新製品効果による収益性改善に期待。

(エクイティ・リサーチ部 甲谷 宗也)

※野村週報 2022年9月26日号「産業界」より

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