足元ではバブル崩壊後類を見ないインフレが進んでいる。8月の企業物価指数は前年同月比+9.0%となった。同時に、2015年以降続いている賃金の上昇が今後どの程度加速するかにも関心が集まっている。賃上げは岸田政権の主要政策で、22年の春闘では大手企業を中心に満額回答が相次ぐなど、賃上げに向けた機運が高まっている。

 本稿では、このような環境下で注目を集める、人件費比率(=人件費/売上高)という指標を取り上げ、それによる銘柄選択が有効になる局面について、賃金および物価動向の観点から検証した。まず賃金については、人件費比率が高い銘柄と低い銘柄とを比べたとき、賃金上昇による業績押し下げ効果は前者の方が大きい。したがって、単純に考えると「賃金上昇は人件費比率の低い銘柄にとってポジティブ」といった連想が働くだろう。一方で、物価動向による影響はどうか。

 人件費比率の低い/高い銘柄をロング(買い)/ショート(売り)したときの株価パフォーマンスを被説明変数、賃金と物価の変化率を説明変数とする重回帰による感応度分析(図表)からは、低人件費比率銘柄は確かに賃金上昇に強いが、一方で物価上昇には弱いという点が指摘できる。この背景として、人件費比率の低さは、裏返せばその他の費用(原材料費など)が高いということが関係しているかもしれない。

 以上を踏まえると、足元のように賃金が上昇していても、同時に物価も上昇している局面においては、必ずしも人件費比率の低い銘柄への投資が有効とは限らないと言える。賃金上昇によるポジティブな影響と物価上昇によるネガティブな影響の両方が存在するため、その時々で両者の相対感を見極めることが重要だろう。

(市場戦略リサーチ部 西岡 伸)

※野村週報 2022年9月26日号「資産運用」より

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