地銀株を支える3 つの好材料

 野村では、地方銀行セクターへの強気の投資スタンスを継続している。年初来、地銀株は総じてTOPIXをアウトパフォームしているが、野村カバー地銀のPBR(株価純資産倍率、2022.3期実)平均が0.3倍台で足元推移するなど、地銀セクターのバリュエーションには引き続き割安感が強い。割安感に加えて、内外金利環境の変化、業績方向の変化、株主意識の高まりの3つの変化が、今後の地銀株価のサポート材料となるものと野村では想定している。

 第一に、内外の金利環境が水準・方向性の両面から変化しており、これが業績・バリュエーションの両面から、地銀株を引き続きサポートすると考えている。

 第二に、経費削減努力や非金利収益強化への取組みなどが奏功し、大手地銀を中心に、減益方向にあった本業収益(コア業務純益)がここ2、3年は底入れ・反転が確認される。この減益から増益への反転は、地銀株価に未だ織り込まれていないとみる。

 第三に地銀への相次ぐ株主提案と新生銀行に対するTOB(株式公開買付)成功を背景に、地銀経営陣が急速にステークホルダー(企業の利害関係者)としての株主・投資家を意識し始めている。こうした一連の動きは、地銀経営に対する株主規律を高め、ROE(自己資本比率)上昇・株主還元改善など株主価値向上につながる可能性が高いと野村では考えている。

 特に第三点については、株主提案と新生銀行に対するTOB成功のいずれも、企業経営に対して株主が及ぼす影響力を、地銀経営陣に強く意識させる結果となった。株主提案を受けていない地銀もこうした提案を受ける可能性を意識した経営計画(ROE目標等)と株主還元策を考えざるをえなくなっている。結果として、自社の経営に理解を深めてもらうべく、トップマネジメント自ら投資家に直接働きかける動きも強まっている模様である。

 こうした動きを受けて、投資家から野村に対して寄せられる、個別地銀の中長期の経営方向性に関する質問やエンゲージメントに関する質問が増えている。投資家の動きの拡がりも、地銀経営に対する株主ガバナンスと規律を高め、株主価値向上につながる可能性が高いと野村では考えている。

パーパスを問われる地銀

 新生銀行に対する敵対的なTOB が成立したこと、また複数の地銀に対して株主還元等に関して株主提案がなされたことは、地銀経営者に、株主が上場会社としての地銀経営に有する影響力を再認識させるに十分であった。

 そもそも株主提案がなされた背景には、多額の有価証券含み益を有する地方銀行の資本管理(キャピタル・マネジメント)が適正か否かについての株式投資家の問題意識があったものと想定される。株主提案は22年6月の株主総会で総じて否決されたが、より広範な支持を得やすい提案が再度なされる可能性もありえること、また株主提案を行う動きに広がりが見えること、などから、提案を受けた地銀、受けなかった地銀のいずれにも警戒感が広がっている。

 従来は地銀経営に投資家が興味を持たず、地銀側もそれに甘んじていた状態にあった。そうした地銀経営に、本格的に株主規律を迫るという点において、一連の動きは幕末における黒船来航が幕府に「開国」を迫ったような意味合いを有すると野村ではとらえている。

 株主として対話を進めるにあたり投資家が直面するのは、地銀経営における、地域社会重視と株主重視経営あるいは収益改善追求の相反性に関する議論である。上場企業である以上、その収益性に関して株主の厳しい目線にさらされるのは当然といえよう。一方、地銀にとって、地域社会、すなわち地元の企業・消費者が主要な顧客であることも論をまたない。そもそも他の産業と同様、本来地銀経営にとっても株主と顧客・地域社会は、どちらをとるかといった二元論的に対立する存在ではなく、顧客価値を実現した結果として、株主価値も実現されるという、両立しうる(すべき)存在ではないだろうか。従来の自社(行)の経営に、株主に対しては地域社会の存在を、顧客・地域社会に対しては株主の存在を、自らの都合のよい論理を押し付ける理由とはしていなかったか、いったん振り返ることも必要であろう。

 株主・投資家の皆様には、中長期的な企業価値実現の観点から、地銀経営陣に対して、その存在意義(パーパス)と中長期的な戦略・改善の問いかけをお勧めしたい。一方、中長期の観点を隠れ蓑に改革を先送りしない、すなわち時間軸を意識した経営が地銀経営陣には求められるであろう。換言すれば、上場企業として緊張感のある資本政策を遂行することが必要となろう。

(エクイティ・リサーチ部 高宮 健)

※野村週報 2022年10月10日号「産業界」より

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