メタバース市場はまだ黎明期にあるが、マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、その年間支出額は2030年にはグローバルで5兆ドルに達すると見られる。

 メタバース市場の拡大には、以下の2点が必要と考える。1点目は、メタバース空間への高い没入感が得られるヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)の普及である。HMDの販売台数はグローバルで年間1,000万台強に留まる。多くのユーザーはPCやスマートフォンでメタバース空間にアクセスしており、メタバース空間で本来得られる没入感を享受できていない。通信の更なる低遅延化や低重量化などの機能向上により、HMD の本格普及が待たれる。

 2点目は、ユーザーのメタバース空間における分身であるアバターの相互運用性の実現である。現在はメタバース・プラットフォームごとにアバターを購入してカスタマイズする必要があり、相互運用性は実現できていない。アバターの市場規模は想像以上に大きい。Epic Games が開発したゲームを中心とするメタバース・プラットフォームのフォートナイトは、月間アクセス数が8,000万人とも言われる。同プラットフォーム上でのアバターアイテムの販売額は年間数十億ドルで、ラグジュアリーブランドの年商に匹敵する。1つのアバターで様々なプラットフォームにアクセスできる相互運用性の実現により、アバター市場の更なる拡大に期待したい。

 中長期では、広告がメタバース市場の拡大に貢献しよう。現在は、空間内に掲載される看板広告が中心である。まだ空間を訪れるユーザー数が限定的なケースが多く、看板広告の広告価値も高くはない。しかし、HMD の普及でHMD を装着したユーザーが増えれば、ユーザーごとにカスタマイズされた広告配信が増える可能性が高い。HMD から得られる視線情報(ユーザーが空間内で何をどの程度の時間見たかが正確に捕捉できる)を分析することで、ユーザーの趣味、嗜好を精度高く推定することが可能になる。無論、個人情報の取り扱いに注意は必要だが、こうした情報を求めて、より多くの企業が空間に広告出稿することも想定される。

 メタバース市場の拡大に向けて、ハード及びソフト面の様々なアップデートが期待される。

(フロンティア・リサーチ部 西川 拓)

※野村週報 2022年10月17日号「新産業の潮流」より

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