12月半ばの重要性

 グローバル株式市場は引き続き、「インフレ次第」の展開を強いられている。10月13日の米CPI(消費者物価指数)発表後には米株急反発が生じたが、「悪材料出尽くし」の要素は見当たらない。アトランタ連銀が算出する粘着価格CPI(家賃や外食など、需給が変動しても価格が動きにくい品目の物価指標)は前月比年率8.3%と、米インフレは基調部分の加速に歯止めが掛かっていないことを示した。しかも足下、米国ではガソリン価格が下げ渋っており、消費者のインフレ期待に上昇圧力がかかりやすくなっている。

 米CPI の上振れにより、株式市場が安定するシナリオは後ずれしたと言わざるを得ない。9月FOMC(米連邦公開市場委員会)時点では、先行きの米利上げについて「11月:75bp、12月:50bp」と上げ幅の縮小を描くことができたが、12月会合でも75bp の追加利上げが市場のメインシナリオとなりつつある。市場が織り込む米金利到達点は5.0%に迫っている。

 12月14日のFOMCまでは、株式市場の本格的な「あく抜け」は見込みにくくなった。①12月13日の11月米CPIの発表までに物価基調が変わるとは想定しにくい、② FOMCは株式市場を冷やすことで年末商戦を抑制し、賃金・インフレを減速させたい意向、という状況があるためだ。米小売売上は減速傾向だが、労働需給を緩和させるには至っていない。12月FOMCで政策メンバーの利上げ想定が示されると同時に、タカ派(金融引き締め重視)一辺倒となっているパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長のコミュニケーション姿勢にようやく軟化のチャンスが出てくる。

 日米ともに株価にはバリュエーション調整の余地が残る。米10年実質金利は、9月下旬の英国債急落以降、需給悪化の影響が及んでいるが、仮に1.0%が妥当な水準だとしても、S&P500のPER(株価収益率)は14倍程度までの調整が必要だろう。日本株はグロース株(成長株)が対バリュー株(割安株)で割高となっており、12月FOMCまでに調整が進むと予想する。なお、英国債急落を契機に、金融市場のストレス指標が悪化している。現状、危機的ではないものの、要注意である。

インバウンド関連銘柄に伸びしろ

 業績はどうか。日・米・欧・中いずれの地域においても7~9月期の景気は悪化ないし底這いだったことを踏まえると、日本企業の7~9月期決算が業績見通しの上方修正要因になることは期待しづらい。鉱工業生産統計の予測修正率では、①化学が悪化、②電子部品・デバイスおよび輸送機械は持ち直すも低調、③生産用機械および汎用・業務用機械は回復傾向、といった傾向が確認できる。ただし、日本の機械受注は、中国企業の設備投資意欲の下振れを受け、現状の頭打ちから減少局面に入ると予想される。企業業績見通し(アナリストコンセンサス)は、7~9月期決算発表後まもなく下方修正が優勢になるとみる。

 株価反転上昇の時期としては、バリュエーションの観点では12月FOMCが一つの候補であり、米金融政策のタカ派化によって調整を強いられていたグロース株がバリュー株に先行して「あく抜け」するシナリオが描ける。一方、日本株が全体として本格的な上昇トレンドに回復するのは2023年春頃とみる。米年末商戦後の在庫調整を23年1~3月期に終え、日本の輸出が再浮上するタイミングで、株価も上昇基調に転じるとみるのが自然だろう。輸出数量は日本株のサイクル判定の有用な指標である。

 逆に言えば、年度末までのセクター戦略は、外需へのディフェンシブ性(景気に左右されにくい傾向)を最優先という基本観である。この先、日本株がグローバル景気の悪化を十分に織り込めたかを判定する上では、2つの指標に注目したい。第一に、景気敏感業種とディフェンシブ業種の相対株価である。これは10月14日時点で、コロナショック後のボトムからピークにかけての上昇幅に対し、調整率は56%と「道半ば」である。第二に、日本株アクティブファンドの基準価格から算出される平均的ベータ値である。この値も過去平均を依然上回っており、「ディフェンシブシフト」の余地が残っていることを示唆している。

 日本の消費セクターを考える上では、①リオープン(行動規制の緩和)、②インバウンド(訪日外国人需要)といった前向きの要素に加え、③「低価格志向」というディフェンシブな側面の重要性も高まってきている可能性がある。10月13日に発表された日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」(9月調査)では、買い物をする際に「価格が安い」ことを重視する人の割合が55.0%と、6月調査(52.2%)から大きく上昇したことが注目に値しよう。

(市場戦略リサーチ部 池田 雄之輔)

※野村週報2022年 10月24日号「焦点」より

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