昨今、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資を行う運用会社を対象に、「見せかけのESG 投資」についての規制当局の監視が強化されている。例えば、米証券取引委員会(SEC)は2022年5月、米大手銀行のバンク・オブ・ニューヨーク(BNY)メロン傘下のBNYメロン・インベストメント・アドバイザーに対して、同社が管理運用するESG 関連の投資信託における虚偽表示及び記載漏れを理由に150万ドルの制裁金を科した。また、SECは22年5月、ファンドのESG投資戦略に関連し、追加的な開示を求める意見募集を開始した。

 国内においても、金融庁が、ESG関連の公募投資信託を取り扱う運用会社に対して、「企業価値に影響を与えるESG 要素をどのように特定・評価しているのか、ポートフォリオの決定にどのように活用しているのか、ESG 関連の事業機会の向上と事業リスクの低減にむけたエンゲージメント・議決権行使をどのように行っているか等について、明確に説明できるよう、運用プロセスの高度化や開示の充実に取り組むことが重要」との見方を示している。

 こうした動きもあり、ESG投資を行う運用会社にとって、ESG 投資戦略を従来以上に明確化する重要性が高まっている。

 野村資本市場研究所は、ESG投資を行う欧米の運用会社3社(ロベコ、フェデレーテッド・ハーミーズ、アラベスク・アセット・マネジメント)を例に取り、ESG投資戦略の実際について公表情報に基づく調査を試みた。ロベコはリサーチ・証券・ポートフォリオの各レベルで幅広くESG統合等を実施し、フェデレーテッド・ハーミーズは投資対象企業とのエンゲージメントを重視、アラベスク・アセット・マネジメントは定量手法を活用という具合に、各社の特徴が見て取れた。黎明期かつ多様であるだけにESG 投資戦略の全体像の把握は容易ではなく、運用会社をはじめとする業界関係者の努力が求められることが確認できた。

 昨今のエネルギー問題をはじめとする状況変化があるとしても、中長期的なESG課題の重要性は変わらないと言える。そうした認識の下、ESG 投資戦略を明確化し、ESG 投資に係る理解度向上を図ることで、ESG投資家の裾野拡大と共に、見せかけではない「真のESG投資」の発展に寄与することが期待されよう。

(野村資本市場研究所 富永 健司)

※野村週報 2022年 10月24日号「資本市場の話題」より

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