ドル円相場は10月に32年ぶり1ドル150円台と円安が進みました。そこで円安が経済に与える影響を考えてみます。 

 まず、円安は企業の価格競争力改善を通じた財輸出数量の増加や、円建て価格の値上げによる輸出額の増加によって輸出企業にプラスになります。また、訪日外国人の増加に伴うインバウンド消費などサービス輸出の増加が見込まれます。さらに、海外子会社が計上している利益や、海外の株式や債券への投資による利子・配当も円換算値で増加します。一方、輸入コスト上昇による国内企業のコスト増加や消費者の購買力低下は円安デメリットになります。

 経済への影響は全体ではプラスと見られますが、日本経済の構造変化から年々円安メリットは小さくなり、デメリットが大きくなっています。

 日本企業が長年の円高で生産拠点を海外にシフトした結果、海外生産比率は現在、20%台半ば近くに上昇しています。その結果、円安に伴う輸出企業のメリットは低下しています。

 一方、企業の生産拠点の海外へのシフトや海外の安価な製品の流入から国内では輸入品が増えています。国内の供給に占める輸入品の比率を示す輸入ペネトレーション比率は、家電製品、家具などの耐久消費者財、食品、日用品などの非耐久消費財共に上昇しています。円安による消費者への価格転嫁が進み、エネルギーなど原材料価格の上昇を転嫁する動きがサービス業などにも広がっています。輸入品が増えたことで、消費者は円安デメリットを実感しやすくなっています。

 ところで、海外との財サービスの取引や投資収益のやり取りなどの収支を示す経常収支を見ると、貿易収支がエネルギー価格上昇などから黒字から赤字に転落し、経常収支の黒字幅が縮小しています。一方、海外との利子・配当などの収支を示す第一次所得収支の黒字幅が拡大しています。ここに、円安デメリットをカバーするヒントがあると考えます。つまり、日本人が海外の株式や債券、これらに投資する投資信託に投資することで、国際分散投資を行い、海外からの所得を増やすことで、国内での購買力低下を補うことを狙うものです。

 もちろん、為替が円高に転じる可能性はあります。円高の場合、円安メリット・デメリットは逆方向になります。ただし、日本経済の構造変化を考えると、経常収支の構成が大きく変化する可能性は低く、日本企業が海外で稼ぐ発想は引き続き必要だと思います。ポートフォリオの分散投資、とりわけ海外への分散投資に取り組むことは重要と考えます。

(野村證券投資情報部 服部 哲郎)

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