根強い米利上げ期待

 米FRB(連邦準備制度理事会)による政策金利引き上げ予想がさらに高まっている。7月26~27日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)後のパウエル議長記者会見では、利上げのペースダウンや休止の可能性も示唆された。しかし、9月20~21日のFOMCで公表されたFOMC 参加メンバーの2022年末の政策金利見通し中央値が6月公表分に比べ一気に1%ポイント引き上げられるなど、FRBの利上げ意欲が衰えていないことが確認された。背景にあるのは、インフレ率高止まりの長期化と、根強いインフレ圧力をもたらしている雇用逼迫や賃金上昇加速の持続である。

 FRBの利上げ意欲の根強さを踏まえ、米国野村は、米政策金利であるFF(フェデラルファンド)レート誘導目標が、23年3月FOMC に向けて5.50%(目標レンジ上限)まで引き上げられると予想している。

 このような根強い米利上げ期待は、グローバルな金融資本市場のさまざま部分にストレスを及ぼし始めている。世界的に株価が軟調な推移を継続しているのはその一例であろう。米S&P500指数は、最近の高値である8月16日の終値4,305.2ポイントを基準とした場合、10月12日の終値にかけて16.9%下落した。

 米国の利上げ継続懸念がもたらしているもう一つの波及効果は、債務不履行懸念の高まりに代表される信用リスクの拡大であろう。英国では、トラス前首相が表明した大型減税を伴った財政拡張的政策の公表を契機として、長期国債の利回り急騰が発生した。金利上昇を増幅したのは、一部年金基金が債券急落に伴って必要となる追加証拠金捻出のため幅広い資産売却を余儀なくされたことにあるとされるが、最初のきっかけは、世界的な金利上昇下での大幅な財政拡張が政府債務に対する信用不安を連想させた点にあると言える。

 英国債利回り急上昇に留まらず、債券市場全般において、債務不履行懸念の強さと連動して動く信用スプレッド(安全資産との利回り格差)が拡大基調にある。米国を中心に更なる金融引き締めによって、金利上昇に耐えきれず債務不履行を起こす経済主体が現れるとの懸念が、世界全体で高まっていることを反映していると言える。

米金利上昇のストレスを受けやすい先

 米利上げ懸念やそれに伴う金利上昇が、信用リスクに及ぼす影響は一様ではない。ここでは、米金利上昇のストレスを相対的に強く受けやすい先を見極める指標を整理しておく。

 まず、今回の「トラス・ショック」に象徴されるように、不用意な財政拡張策を講じた場合に一様に信用不安を高める結果となるかどうか、である。この点は、もとより経済規模の2倍を超える公的債務を負っている日本の財政について強く懸念される点でもある。米金利上昇のストレスが信用不安を増幅するかどうか、という点では、単に財政赤字や政府債務の大きさだけではなく、それを埋め合わせる資金調達においてどの程度海外の市場や投資家に依存しているかにポイントがあると考えられる。基軸通貨である米ドルの金利が上昇している下では、米ドル建ての安全資産への逃避が可能な投資家に依存しているほど、何らかのショックにより投げ売りを浴びせられる可能性が高いと考えられるからである。その度合いを判断する尺度として有効なのは、経常収支赤字の大きさや対外債務残高の大きさであろう。財政収支だけでなく、経常収支も赤字となっている、いわゆる「双子の赤字国」ほど、米金利上昇がもたらすストレスに弱いと考えられる。新型コロナウイルス感染症禍による財政状況の悪化に加え、ウクライナ紛争勃発などに起因する一次産品の市況高騰が経常収支赤字の拡大を招来している国・地域ほど脆弱性が大きいと考えられるだろう。

 公的な債務に関してのみならず、法人企業の資金調達においても、どの程度海外の市場や投資家に依存しているか、という尺度は、米金利上昇によって受けるストレスを判定する際には重要であろう。個別の企業あるいは特定の国・地域に籍を置く企業全体として、外貨建て債務比率、とりわけ米ドル建て債務比率の高さ、に注目することは有効であると考えられる。

 米ドル金利が上昇しそのストレスが及んだ際の、耐性や抵抗力をみることも有効であろう。伝統的な尺度として用いられるのは、外貨準備残高そのものや、国・地域全体としての輸入額をどの程度外貨準備でカバーできるか、といった指標であろう。

 もともと対外債務残高の規模が大きく、かつ、自国・自地域において一次産品の産出が少ない一部の新興国やそうした国に立地する企業が、今般のような米金利上昇局面においては特に強いストレスを受けやすいと考えられるだろう。

(経済調査部 美和 卓)

※野村週報 2022年10月31日号「焦点」より

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