大型作品増加で映画に回復感

 映画業界では新型コロナを受けた映画館の休館や映画制作の停滞等により厳しい事業環境が続いていた。特に洋画の供給停滞が興行収入低迷の主要因となっていたが、2022年の大型作品は21年を上回っており、更に8月公開の「ONE PIECE FILM RED」のヒットもあり回復感が出てきた。

 今後も大型と見られる作品公開が控えていることや、各社IP(知的財産)戦略、スクリーン数の増加、業務効率化等を踏まえると、中期的に業界は拡大フェーズに入ることが期待される。

アニメ事業を中心に戦略が変化

 映画業界においては近年、興行収入が大規模になるアニメ映画が増加しており、人気IPのアニメ映画化に注目が集まっている。20年は「鬼滅の刃」、21年は「エヴァンゲリオン」、「呪術廻戦」といったIPのアニメ映画が興行収入100億円を突破した。こうした動きを受け、各社のアニメ事業には変化が起こってきている。東宝では新中期経営計画においてアニメ事業を第4の柱として掲げ、映画やテレビアニメに留まらず演劇やゲーム等へ展開することで収益最大化を図る。東映ではこれまで東映アニメーションがアニメ事業の中心であったが、7月には組織再編によりアニメ開発室が設けられた。こうした動向を踏まえ、映画各社の収益はアニメ、映画、ゲームといった複数領域への展開でシナジーを発揮し拡大すると野村では予想する。

製作委員会の収益性は改善

 アニメや映画製作委員会では動画配信事業者の台頭により収益性が改善してきている。かつては興行収入やDVD・Blu-rayディスクの販売等が主な収益化手段であったが、大ヒットとならなければリターンを得ることが難しかった。だが、近年では動画配信サービスへの配信権販売により収益化が容易な環境となっている。特に新規IP作品は固定ファンがいないため収益見通しが立てづらくリスクが高いが、収益性の改善により積極投資が可能となってきている。東映では子会社を通じて新規IP作品の創出を進めており、今後の動向に注目したい。

スクリーン数増加等で拡大フェーズ

 映画業界のスクリーン数は新型コロナ禍においても増加が続いていた。

 デジタル化による人件費削減や、音響・映像設備が充実した高単価劇場での鑑賞増加等で収益性が改善していたことから、各社積極的にスクリーンへの投資をしていたと推察される。

 東宝では新中期経営計画において新規シネコン出店への投資を掲げており、スクリーン数増加のトレンドは今後も続くと予想する。また、19年6月には25~26年ぶりに各社で一般料金の引き上げが行われており(従来:1,800円、新:1,900円、一部会社除く)、興行収入拡大と共に利益率改善へ寄与しよう。

(エクイティ・リサーチ部 三木 成人)

※野村週報 2022年10月31日号「産業界」より

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