アジア株は二極化、中国に成長懸念

 年初来(10月27日時点)の世界主要株式市場の騰落率では、トルコ、ブラジル、インドネシア、インドなど新興国が上位を占めた。一方、下位には、香港、ベトナム、ロシア、台湾、韓国、中国が並んだ。

 アジア株は二極化している。明暗を分けた一因は中国景気に対する懸念であろう。中国本土及び香港株(以下、中国株)は、共産党大会を受けた成長懸念、新型コロナの感染再拡大と断続的な都市封鎖、不動産市場の調整が相場を下押しし、軟調に推移した。台湾、韓国は、中国景気や半導体市況の悪化への懸念が向かい風となった。

 一方、中国景気との連動制が相対的に低く、中長期的に高い経済成長率が期待され、インフレ圧力がさほど強くない、内需が底堅い国の相場は比較的堅調だった。インドネシアは、天然資源が豊富で資源価格の高止まりが追い風となり、インドは経済活動の正常化に伴う企業業績の改善や景気対策に対する期待が相場を下支えした。

 中国では、5年に1度の共産党大会が2022年10月22日に閉会し、23日には一中全会(中央委員会第1回全体会議)が開催され、党指導部の人事が決定した。序列トップの総書記には習近平国家主席が3期目の続投を果たし、新たに発足した指導部を側近で固めたことで、習氏の党内掌握がさらに進んだと見られる。

 経済面では、成長目標が明示されず、国家の安全や、格差を是正する共同富裕などが強調された。成長よりも社会主義的な価値観に重きを置く政策を一層推し進めるとの懸念が株式市場では広がった。

 産業政策に関しては、宇宙、航空、原子力、環境保護、軍事装備などに詳しい委員が指導部に登用されている。また、通信などの新型インフラ、生産工程のデジタル化、電気自動車や半導体の国産化などの政策がうたわれている。科学技術やイノベーションの向上を意図していると見られ、関連する産業の株式には注目が集まろう。

 今後の中国の注目点は、23年3月の全国人民代表大会に向けて、中長期の目標が提示されるか、台湾や対米関係などの外交や安全保障、喫緊の課題である新型コロナの感染対策、低迷する住宅市場について、より踏み込んだ政策が示されるかである。

進む株価の調整、割安なベトナム株

 ベトナム株は、世界的な景気後退懸念に加え、通貨防衛のための利上げ、私募債を巡る不祥事などが相場を下押しした。

 2022年3月以降、地場系不動産開発大手の傘下企業が違法に私募債で資金調達した事案が発生し、社債市場の停滞につながっているが、ベトナム政府は社債市場の整備を進めており、健全化する方向に進もう。

 ベトナム経済は輸出依存度が高く、世界景気悪化の影響が懸念されているが、足元では回復基調が続いている。7~9月期実質GDP(国内総生産)成長率が前年同期比+13.7%、1~9月通期でも同+8.8%と高成長を遂げた。前年の反動も高成長の一因だが、1~9月の輸出は同+17.2%で、対米輸出が特に好調だった。また、9月小売売上高は前年同月比+36.1%と、個人消費も堅調だった。

 引き続き世界景気の悪化は懸念材料だが、今後は入国規制の緩和による観光業の回復が期待され、比較的抑制されたインフレ動向もベトナムの経済成長を後押ししよう。また、足元の環境変化を受けて生産拠点を中国からシフトさせる「チャイナプラスワン」の動きが加速する可能性にも注目したい。従来からの人件費高騰、労働争議に加え、厳しい都市封鎖による供給網の混乱を背景に、ベトナム、マレーシアなどの東南アジアやインドに工場を移転する動きが散見される。

 国際通貨基金は、ベトナムの実質GDP成長率(22年10月時点)を22年は前年比+7.0%、23年は同+6.2%と高成長を予測している。中長期的にも、ベトナムは、中間層の増加、低廉な賃金、高い労働者の質、インフラ、中国に隣接する地理的な優位性、安定した政治などにより、外国資本の直接投資と外需が雇用の増加と賃金上昇につながり、内需を後押しする好循環を生み、高成長が続くと考えられる。

 世界の主要株式市場では、投資家心理の悪化に伴い調整が進み、投資尺度から見た株価の割高感は解消されつつある。アジアの主要株価指数の予想株価収益率(ブルームバーグ推計値、22年10月31日時点)は、ベトナムVN 指数は9.7倍と、上海総合指数の10.4倍を下回り、13年以降最低水準にある。

 引き続き米国の金融政策や景気減速懸念に左右される展開が予想されるが、足元の経済環境と中長期の成長性に鑑みれば、ベトナム株の割安感に注目が集まる可能性があろう。

(投資情報部 坪川 一浩)

※野村週報 2022年11月7日号「焦点」より

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