貿易収支は、為替取引に大きな影響を与えることがあります。以下は、輸出と輸入が為替に与える影響を図にしています。

 上が輸出です。日本国内で作って輸出した車をアメリカの購入者が1万ドルで買いました。アメリカの購入者は1万ドルを払います。しかし、日本では1万ドルをそのまま渡されても流通上不都合が生じますので、為替市場でドルを売って円を買う取引を行います。1ドル150円だとすると、1万ドルは150万円になって、例えば国内工場の給与として支払われます。つまり輸出ばかりしていると、為替市場では「ドル売円買」取引が続き、円高、すなわち円は強くなっていきます。

 輸入は逆です。日本が100ドル分の石油を買います。その100ドルを支払うのに円を売ってドルを買う取引が発生します。1ドル150円だったら1万5000円の円を100ドルに変えて産油国に渡すことになります。つまり輸入ばかりしていると、為替市場では「円売ドル買」取引が続き、円安、すなわち円は弱くなっていきます。

 以下の表は、日本の貿易収支です。

 かつては貿易摩擦が問題になるほどの貿易黒字だった日本も、2010年(平成22年)以降は貿易黒字と赤字が交互にきていましたが、令和4年度の上期の貿易赤字は累計11兆円を超え、半期の赤字額としては過去最大の水準です。生産拠点の海外移転による産業の空洞化、自給率の低さから資源など原材料価格の高騰と円安による購入価格の高騰など、様々な要因で貿易赤字が拡大しています。結果、貿易に伴う為替取引では、円を売ってドルを買う円売り取引の方が差し引き多くなることが想定されます。貿易収支から見ると、円安が続きそうな環境です。

(投資情報部 東 英憲)

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