今週24日(木)は、米国では感謝祭の祝日です。米国株式市場は当日休場、翌25日(金)には短縮取引となります。取引にご注意ください。

11月11日~11月18日の騰落減速するインフレ指標とタカ派的なFRB発言の綱引き

 先週の米国株式市場は、一進一退となりました。

 15日(火)に発表された10月PPI(生産者物価指数)は、前月比+0.2%と市場予想の同+0.4%を下回りました。先週発表された10月CPI(消費者物価指数)に続き、主要な米国のインフレ指標が市場予想を下回ったことから、インフレのピークアウト期待が高まりました

 一方、FRB(米連邦準備理事会)は、金融市場がインフレのピークアウト観測を先取りしすぎることを警戒していますFOMC(米連邦公開市場委員会、米国の政策金利を決定する機関)で投票権を持つセントルイス連銀のブラード総裁は17日に開かれた講演で、米政策金利について「今年はかなり大きく引き上げてきたが、まだ十分に制限的な水準に達していない」と述べ、金融緩和への期待が後退しました。

 11月FOMC後の記者会見でパウエルFRB議長は、次回12月、あるいはその次の会合で利上げ幅を0.50%ポイントに縮小する可能性があることを示唆した一方、政策金利の最終到達地点を上方修正する可能性に言及しました。市場の目線を目前のFOMCから最終的な政策金利の到達地点に変えることで、相場の転換期待に対して釘を刺す意図を持って行われた面があると考えられます。

  インフレのピークアウト期待と、タカ派的なFRB高官発言の綱引きが続いています。

①経済指標・金融政策:23日(水)、ミシガン大のインフレ期待調査

注目の経済指標はミシガン大のインフレ期待調査(確報値)

 23日(水)に11月のミシガン大学消費者態度指数確報値が発表されます。先々週の米国株急騰のきっかけとなったCPIは足元かつ単月の数字ですが、同大調査で発表される期待インフレ率調査(今回は改定値)は、将来のインフレに対する人々の期待に関する調査です。消費者のインフレ期待が自己実現的にインフレを引き起こし得るため、金融政策当局が重視しており、市場参加者の注目度も高い統計です。

野村のストラテジスト予想「米株反発は息切れへ」

 当シリーズでは何度か触れていますが、株価は基本的に

予想EPS × PER

EPS…1株当たり利益

PER…株価収益率

で計算されます。この視点で改めて整理してみます。

PERを考える

 11月の株価上昇は、概ねPERの上昇で説明ができます。PERは、米長期金利(10年債利回り)との逆相関が認められる指標です。つまり、長期金利が低下するとPERが上がり、PERが上がると株価が上がる、という関係になります。さらに、先週の解説でも見てきた通り、長期金利を方向付けているのは米政策金利(の到達点)であり、政策金利はインフレ動向に左右されます。

 では、インフレがピークアウトしさえすれば、政策金利は低下に向かうのでしょうか?11月18日時点で米金利市場の織り込む政策金利期待は、FOMCコンセンサスの政策金利予想とほぼ一致しています。そして、FOMCコンセンサスでは年末から来年を通じてインフレ率が順調に低下することを予想したうえで、2023年末まで政策金利を据え置きとしています。このため、野村の宍戸ストラテジストは「FRBが予想する程度のインフレ低下ではこれ以上の金利低下材料にはなりづらい」と指摘しています。なお、”FRBが予想する程度のインフレ低下”とは、9月FOMC時点・コアPCE(個人消費支出)デフレーター基準で、2023年末:前年同期比+3.1%、2024年末:同+2.1%です。この数字を上回るペースでインフレが鈍化することが政策金利低下の条件、ということです。

予想EPSを考える

 もちろん、FOMCコンセンサスに比べ「早期のインフレ鈍化」が達成される可能性もあります。しかし、そのためには本格的な需要減少=景気後退が生じる必要があります。こうした環境はPERの低下が期待できる一方で、企業業績(EPS)の下押し圧力は高まります。宍戸ストラテジストは、こうしたPERの上昇とEPSの低下が同時に起こる状況では「差し引きで株価にプラスとは言いにくい」とコメントしています。

②決算:エヌビディア、アプライド・マテリアルズ…半導体株上昇の背景は

PERが上昇しているセクターは?

 では、個別セクターではどうでしょうか。前項と同じく「予想EPS×PER」の考え方に基づいて、PERが上昇しているセクターに注目してみたいと考えます。足元では、銀行、エネルギー、素材、資本財、半導体といったセクターでPERが上昇しています。銀行・エネルギー・素材のPER上昇はコロナ禍の巻き戻しとも捉えられますが、コロナで追い風を受けたはずの資本財・半導体で同様の現象が起きているのはなぜでしょうか。

 これには、アナリストの予想が集中する1年先予想のEPSは低下し続けているものの、これをさらに先取りする形で株価が上昇しているという背景が考えられます。投資家が(予想)EPSの下げ止まりを先取りしようと試みること自体は、マーケットをアウトパフォームしようとするならば当然の行動と言え、予想EPSと株価の逆行自体は不自然な現象とは言えません。これが根拠のあるものなのかを見るために、半導体に関するいくつかの数字を確認してみたいと考えます。

(メモリー)半導体価格は

 足元、主要な半導体製品であるメモリー市況は一層悪化しています。10月の大口価格はDRAM(電源を落とすとデータが消去されるメモリー半導体)で前月比22%下落、NAND (電源を落としてもデータが保存されるメモリー半導体) で同4%下落しました。野村では2023年前半までメモリー価格の大幅下落が続き、2023年後半は市況が回復すると予想しています。一方、アナログ半導体各社の決算発表ではこれまでの所、自動車のサプライチェーンの復旧に伴って需要が好転しているとのコメントが散見されます。

注目される需要先「クラウド・サービス・プロバイダー」の設備投資は堅調

 データセンター向け(ロジック半導体や、前述のメモリー半導体も一部含まれる)では、クラウド・サービス・プロバイダー(CSP)大手5社(マイクロソフト、アマゾン・ドットコム、メタ・プラットフォームズ、アップル、アルファベット)の動向が注目されます。CSP大手5社の7-9月期設備投資金額は前年同期比+19%となり、投資方針を維持しています。

サーバー向け半導体メーカーの環境は厳しいがCSP向けは相対的に底堅い

 サプライチェーン上流に目を向けると、サーバー向けCPUで寡占状態にある2社(インテル(INTC)とAMD(AMD))のデータセンターセグメント売上高合計は、それぞれ前四半期比5%減、前年同期比16%減となりました。ただし、AMDの決算発表時のコメントによれば、データセンター顧客の中ではクラウドサービスプロバイダーが最も堅調で、2023年も前年比プラス成長が見込まれるとコメントしています。

大手半導体企業の業績は

 先週発表された半導体企業の業績は、半導体製造装置大手アプライド・マテリアルズ(AMAT)、ロジック半導体大手のエヌビディア(NVDA)、いずれも8-10月の売上高が市場予想を上回り翌営業日の株価は上昇しました。一方、メモリー半導体大手のマイクロン・テクノロジー(MU)は、DRAMとNANDのウエハーの生産を2022年6-8月期比約20%削減すると発表し株価は下落しました。

根拠ある上昇だが、底打ちとなるかは今後に注視

 まだ不確定要因が多い中で、半導体株が底打ちしたと見るのは時期尚早との声も聞こえます。しかし、製造装置大手やロジック半導体大手が低いハードルながら決算発表を「市場予想超え」で終えたことや、クラウドサービス向けや自動車向けなど特定製品への需要に限ってみれば良い材料も出ていることは事実です。今週は、サンクス・ギビング・デーでハイテク企業の決算発表は多くありませんが、22日(火)に決算を発表するアナログ半導体大手のアナログ・デバイセズ(ADI)などの業績を確認しながらの、投資先選定が求められます

(FINTOS!米国株/小野崎通昭)

ご投資にあたっての注意点