地球観測衛星(以下、観測衛星)が撮影した画像を、中継して地上へ送る中継通信衛星(以下、中継衛星)の実現が近づいた。

 観測衛星が撮影した画像の活用は既に一部で始まっている。例えば、広い農地でエリアごとの農作物の成熟度を観測し、収穫時期やその順序を決定している。

 観測衛星は、できるだけ解像度の高い画像を撮影するため、通常は地上500km以下と、人工衛星としては相対的に低い軌道を飛ぶ。地上に近く重力の影響が大きいため、落下しないように高速で軌道を周回する。地上から観測衛星を見ると、短時間で上空を通過していくことになる。

 高解像度の画像はデータ量が大きく、観測衛星から地上への送信に時間がかかる。撮影と同じ周回時に送信しようとしても、短時間で送信先の地上局の上空から外れてしまう。このため、次の周回時に送信することが通常である。

 中継衛星は観測衛星よりも高い軌道を飛ぶため、観測衛星とも、地上とも、通信可能な時間を十分確保できる。観測衛星の画像データを中継衛星が一旦受信して地上へ送信するならば、観測衛星の位置に関わらず、撮影から間を置かずに地上で画像を確認できるようになる。

 中継衛星を使うと、観測衛星は従来地上局へ画像データを送信していた時間も、地上局の上空を含む画像の撮影に充てられる。撮影頻度を高めることができ、撮影画像の用途拡大へも繋がるだろう。

 中継衛星は複数の観測衛星のデータを中継する必要があり、データ通信を効率化する工夫が凝らされている。

 第1に、観測衛星と中継衛星とのデータ通信にはレーザ光通信が使われる。レーザ光通信は、レーザ光の軸合わせが難しいものの、高速通信ができるため、画像データの送受信が短時間で完了する。

 第2に、中継衛星では画像データのノイズ除去などのデータ処理も行う計画である。観測衛星を巨大なセンサとすれば、これはセンサ側での一種のエッジ処理である。地上へ送るデータ量を削減でき、データ送信時間を短縮できる。

 複数の企業が2025年に中継衛星を実現する計画を発表している。中継衛星は、人工衛星向けサービスという、新しい宇宙関連事業と位置付けられる。

(フロンティア・リサーチ部 小澤 育夫)

※野村週報 2022年11月28日号「新産業の潮流」より

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