COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)は、インフレが大きな問題となる中で開催された。政治・経済的配慮から、短期的には化石燃料の使用継続が容認された。言い換えれば気候変動政策の「アメとムチ」の「ムチ」にあたる規制が先送りされた形である。一方で、主催者側が各国に求めた下記3つのテーマとその議論からは、中長期的により多くの公的・民間資金の必要性が提示された。

① 「1.5℃目標」への具体的な行動
② 資金繰り強化
③ 移行プロセスの透明性と説明責任

 まず①は、パリ協定の気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃以内に抑える「1.5℃目標」に向けて、具体的な行動を策定することである。IMF(国際通貨基金)は1.5℃目標達成のためには、2030年までに温暖化ガス排出を19年の水準の約半分に削減する必要があるが、21年時点の「国としての気候変動への貢献計画(NDC)」をすべての国が実行できても11%削減に留まることを示し、各国の削減積み増しを促した。

 ②は、脆弱国が気候被害を受けた際に補償を行う「損失と被害」基金の設立で合意した。③は、COP27に先立ち、ECB(欧州中央銀行)は市中銀行の気候と環境リスクへの対応策策定の期限を24年末に設定し、対応できない銀行に自己資本の積み増しなどの強制措置を取ることを発表した。また、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、サプライチェーン(供給網)を含めた排出までのESG(環境・社会・企業統治)開示を求めることを決定し、気候対策での民間資金活用を促した。

 「アメ」にあたる政策支援については、8月に成立した米インフレ抑制法(IRA)の恩恵を企業が7~9月期決算で表明した。中でもCCUS(CO2の回収・活用・貯留技術)については、補助額引き上げで石炭火力発電所への導入が経済合理性に見合う、また、CCUSやクリーン水素の投資機会が300億ドルになる、といった具体的なコメントがなされた。IEA(国際エネルギー機関)のロードマップでは、CCUSは30年に先進国の石炭火力発電で必須の技術だが、政策支援で資金回収の透明性が高まり設備投資が加速すれば、前倒しでの実現も可能だろう。また、設備投資の受け皿となる企業には追い風となろう。

(投資情報部 竹綱 宏行)

※野村週報 2022年11月28日号「投資の参考」より

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