準大手は資材価格上昇で採算が悪化

 主要ゼネコン、マリコンでは、7~9月期の営業利益が前年同期比で減益となった企業が多かった。2022.3期以前に受注した案件は受注時採算が低下しており、そうした案件の売上進捗や資材価格の上昇による悪影響により、建築の粗利率が4~6月期に続き低位だった。資材価格上昇は鋼材価格が大きく上昇した影響が大きかったとみられ、鋼材は建築の工事原価のうち平均して1割程度を占める主要資材である。また、粗利率の低下幅が大きかった戸田建設や西松建設などの準大手ゼネコンは物流倉庫案件の受注比率が比較的高く、物流倉庫案件は鋼材コストが全体の工事原価に占める割合が高いため、鋼材価格上昇による悪影響を受けやすい面があった。

 上期の低調な利益進捗や手持ち工事の採算が低下したことなどを踏まえ、準大手ゼネコンを中心に通期の営業利益計画は7~9月期決算発表の際やその直前に下方修正された。大手ゼネコンの7~9月期の業績では資材価格上昇の悪影響が準大手ゼネコンに比べると軽微だったが、清水建設や大林組などの大手ゼネコンにおいては、22.3期に受注した大型の再開発案件にて資材の調達が完了していない案件も残ると見られ、足元の資材価格の上昇で調達コストが一段と増加し、採算が一層悪化するリスクに注意が必要であろう。

 ゼネコン各社は資材価格の上昇に対して発注者側に工事請負金額の変更や建物の性能や機能を維持させつつコストダウンを図るVE(バリューエンジニアリング)提案を粘り強く発注者に行う考えである。ただし、民間の建築案件では物価スライド条項が契約に入っていないケースが多く、既に受注契約を行った案件での価格転嫁は容易ではないだろう。性能や機能面以上に価格面が重視される傾向にある物流倉庫やビル案件では特に交渉が難航しよう。

 とはいえ建設需要は堅調であり、7~9月期では製造業向けで各社の受注高が増加した。住宅や病院向けの大型案件の受注計上があったゼネコンもあり、上期の受注進捗は通期の会社計画に対して順調だった。発注量が豊富な中でゼネコン各社の受注時採算が改善し始めている。大手ゼネコンの受注時採算は特に今後改善に向かうだろう。

大型案件の競争は緩和へ

 大手ゼネコン間では売上高の増加や実績作りを目指し、20.3期頃から大型案件において過当競争が続いてきた。22.3期では、各社の建築粗利率が低下し業績が一段と悪化した。大林組や清水建設においては多額の工事損失金を計上したことも大きく影響した。建築における手持ち工事の採算低下を受け、足元、ゼネコン各社は採算確保のスタンスに舵を切り始めたと見られる。受注審査の厳格化や受注時利益率の目線を持った営業活動などを行った結果、7~9月期に受注時採算が改善し始めている。今後価格競争が緩和し、各社の受注時採算は一層改善に向かうと考える。

 建設需要は再開発案件の発注や経済の正常化に伴う商業施設やリニューアル工事などの回復により堅調な推移が続くと見込まれる。ただし、今後の受注高の推移は大手ゼネコン間で差がつくだろう。大林組や清水建設では22.3期以前に受注を積み上げ、24.3期以降に施工を行う大型案件を豊富に抱えている。そのため、両社では施工キャパシティを考慮し、中期的に受注を抑制する動きが続くと考えている。その中で、新規の受注を獲得する余力のある大成建設や鹿島建設の受注シェアが上昇するだろう。

 大林組や清水建設では、低採算の大型案件を相対的に多く抱えている状況であり、低採算案件の売上進捗が中期的な粗利率の下押し要因となろう。今後受注抑制が必要な中で、受注時採算が改善した案件の売上寄与も相対的に小さくなると考えており、粗利率は中期で改善しづらいとみる。そのため、受注時採算が改善した案件の売上拡大により粗利率の改善が見込まれる大成建設や鹿島と、大林組と清水建設では中長期でみて粗利率の水準に差がつくと考えている。受注時採算が改善し始めたタイミングが、大成建設では22.3期下期からであり、鹿島建設は23.3期7~9月期からであることを考慮すると、建築粗利率の改善のタイミングを大成建設が24.3期から、鹿島建設では25.3期からと予想している。

 26年以降に竣工を迎える大型の再開発案件の発注が23.3期下期以降再び増加すると見られる。採算重視のスタンスに各社が方針を切り替えており、過当競争の中で低採算での受注となるリスクは小さいと考える。ただし、採算重視での営業活動が徹底されていなかった22.3期以前から営業を行っている案件についてはすでに低い価格で発注者との交渉が始まっている可能性もあり、散発的に低採算案件の受注計上が続くリスクには注意したい。

(エクイティ・リサーチ部 濱川 友吾)

※野村週報 2022年12月5日号「産業界」より

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