欧州では夏場に比べるとエネルギー危機への懸念が後退している。欧州連合(EU)での天然ガスの貯蔵能力に対する在庫量は11月23日時点で94%となっており、例年に比べて余裕がある。欧州主要国がガスや電力価格に上限を設定するなどの対応に乗り出していることも一因と見られる。

 しかし、エネルギー危機への懸念が完全に解消したわけではない。ロシアが欧州向けの天然ガス供給を一段と削減するリスクは残る。また、冬場にかけて気温が平年よりも低下すれば、天然ガスの消費量も増加する恐れがある。

 野村では、ユーロ圏経済は10~12月期から景気後退に陥ると見ている。ドイツで天然ガスの配給制が導入されるなどで、深刻な景気後退に陥るとまでは考えにくいものの、エネルギー不足への備えとして天然ガス消費の削減が企業の生産活動に影響を及ぼすと考えられる。

 今後、エネルギー不足への懸念は特にドイツにおいて強まりやすいだろう。他の欧州諸国に比べ、ドイツではロシア産天然ガスの依存度が高かった。冬場に向けてドイツではガス消費の削減が一段と求められ、景気はある程度減速すると見られる。ドイツ統計局のデータを見ると、化学、非鉄金属、紙・パルプなどの業種で電力消費が多い。電力消費の多い業種の生産は他の業種に比べて落ち込んでいる。

 ユーロ圏の景気減速リスクを踏まえれば、ECB(欧州中央銀行)の利上げサイクルは終了に近づく可能性がある。深刻な景気後退が回避されるとの見方やエネルギー価格の下落にともなう貿易収支の改善が、ユーロの対ドルでの一時的な反発につながるかもしれないが、ユーロの本格的な上昇は考えにくい。ユーロ圏経済の弱さはユーロの重石となるだろう。

(市場戦略リサーチ部 春井 真也)

※野村週報 2022年12月5日号 「経済データを読む」より

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