自動車の回復が牽引する

 住友電気工業、フジクラ、古河電気工業の電線3社合計の営業利益は2022年度に前期比36%増益、23年度同31%増益、24年度も同10%増益と、世界経済の不透明感が残る中でも利益成長が続くと予想する。

 23年度の増益を最も牽引するのは、自動車用のワイヤーハーネス(組み電線)事業である。上記3社のワイヤーハーネス事業は22年度上期に営業赤字であった。新型コロナ影響や半導体不足による自動車の供給網の混乱の影響が大きい。ワイヤーハーネス事業は労働集約的な生産が特徴である。完成車の挽回生産に備え、従業員を多く確保していた中で、完成車の減産が繰り返されたため、重い固定費の負担が発生した。

 半導体不足の解消等により、完成車の生産体制、同業界の供給網の混乱は徐々に正常化に向かうであろう。電線各社の固定費負担も減少すると予想する。22年度のコスト増要因の一つであった海上運賃もスポットでは下落しており、23年度にはコスト減要因になる等により、ワイヤーハーネス事業の収益は大幅に改善すると予想する。

自助努力の成果を発揮

 エレクトロニクス関連の部材を展開する素材会社では、世界的なスマートフォンやパソコン需要の減少により、足元業績が苦戦するケースが多い。しかし、電線各社の同事業では大きな収益回復を示している。

 代表例は住友電気工業である。同社のエレクトロニクス事業は16年度に100億円超の営業赤字となり、その後も低迷していたが、野村では22年度には同事業として過去最高の310億円の営業利益になると予想する。主に、フレキシブルプリント基板(FPC)の収益改善が大きい。汎用品種での生産能力を大幅に削減し、同社が得意とする高付加価値分野での販売が大きく伸びている。また、電気自動車(EV)関連の部材等の拡販も続いている。

 フジクラもニッチ分野での高シェア製品の拡販が進んでいるほか、FPC事業での生産能力の削減を含めた構造改革の進展により、エレクトロニクス事業の収益が大幅に改善している。19年度には営業赤字であったが、野村では、22年度には10%超の売上高営業利益率を達成できると予想する。

好調が続く情報通信事業

 光ファイバ、光ケーブル、光部品等の情報通信分野の事業は各社とも好調が続いている。データセンタ向けの製品需要は短期的に減速すると予想されるが、一般世帯向け等の光ファイバ網強化のための需要等は増加基調が続く可能性が高い。世界的な情報通信量の拡大により、光ファイバ網等への投資が続いているためである。

 米国、イギリス、ドイツ等の一部の欧州地域では、光ファイバ網の普及率が日本や韓国等の東アジア諸国に比べると大幅に低い。これらの地域では公共事業として、光ファイバ網の強化に取り組んでおり、米国では複数の公共予算が付与されている。

 フジクラは同社の高密度光ケーブルが欧州の大手通信キャリア向けに拡大している。今後も中期的な成長が期待できる。また、古河電気工業は、米国に光ファイバ、光ケーブルの生産拠点を持ち、世界的に需要が最も旺盛な同地域での販売構成比が高い。同社の課題であった生産性についても足元で改善している。住友電気工業は携帯基地局向けの電力増幅器に使用される電子デバイスの世界シェアが高く、欧米、中国だけではなく、今後はインド等での拡販が期待できる。

電力網の強化が事業機会につながる

 世界的な再生可能エネルギーによる発電拡大により、各地で新たな電力網建設が進められている。洋上風力向けなどで新しい電力網の構築が予想されるほか、再生可能エネルギーは発電が天候要因で左右されるため、広域で電力網をつなぎ、電力需給を調整する必要があるためである。

 住友電気工業は直流高圧の送電ケーブルでは世界的なメーカーである。同社が独自に開発した絶縁体等が強みになっており、同社の基礎素材の研究開発力が生かされている事業である。欧州、アジア等の国の重要インフラとなるプロジェクトで多くの受注実績がある。22年7月にはイギリスとドイツを結ぶ国際連系線の超高圧直流ケーブルの受注を発表した。

 日本では洋上風力発電の将来的な拡大を受けて、北海道と首都圏を結ぶ送電ケーブルの建設が検討されている。こうしたものが具体化すれば、同社の中長期的な事業機会につながると予想する。

 古河電気工業も洋上風力と地上をつなぐ送電ケーブルの開発に積極的に取り組んでいる。日本での洋上風力発電の拡大とともに、同事業の拡大が期待でき、中期的な収益源になると予想する。

(エクイティ・リサーチ部 松本 裕司)

※野村週報 2022年12月12日号「産業界」より

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