①先週の振り返り:「サービスのインフレ」が懸念された
30日(水)の講演会でパウエルFRB議長は、コアインフレ率を財(モノ)・家賃・家賃以外のサービスの3つに分類した上で、「家賃以外のサービスが、今後にとって最も重要」とコメントしていました。先週は、まさに「家賃以外のサービス」のインフレがマーケットに影響した一週間でした。5日(月)に発表された11月ISM非製造業景気指数が市場予想平均を上回り、サービス業は堅調…つまり、インフレが起きやすい環境が継続しているとの見方が広がりました。
一方で、モノのインフレは減速が意識されています。11月PPI(米生産者物価指数)は前月比+0.3%と市場予想の同+0.2%を上回ったものの、国内製造業における投入コストの上昇は鈍化し続け、製造業の原材料・部品価格の減速が続いています。同様の傾向は、ISM製造業景況指数でも示されていました。
9日に発表された12月ミシガン大学消費者期待インフレ率調査の速報値は、1年先については4.9%から4.6%に低下したものの、5年先は11月23日に発表された11月確報値の3.0%から横ばいでした。消費者のインフレ見通しは根強いとみられます。サービス価格のインフレ高止まり、それと表裏一体にあるサービス業の堅調な雇用環境がある限り、FRB(米連邦準備理事会)はハト派に急旋回することなく、慎重な金融政策を続けると見込まれます。
②今週の気になる指標:FOMC結果を左右する13日(火)のCPI
マーケットの最注目は13日(火)-14日(水)に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)です。インフレ減速が意識される中での金融政策のメッセージであることに加え、3ヶ月に一度の経済見通しや政策金利の長期的な見通し(いわゆる「ドットチャート」)が発表される機会でもあり、注目が集まっています。ただ、13日に発表される11月CPI(米消費者物価指数)は、FOMCの議論に大きな影響を与えると見込まれるため、FOMCと同等に市場の関心の高いイベントとなりそうです。
まず、12月FOMCでの利上げ幅は、CPIが市場予想(前月比+0.3%)を大幅に上振れない限り0.50%ポイントとなる可能性が高いと見込まれます。最も注目される点はFOMC参加者が予想する政策金利の到達点(今後、どこまで利上げが続くか)でしょう。野村の米国のマクロチームでは「仮にCPIが予想を下振れた場合、FOMC参加者による政策金利予想の到達点の中央値は5%を下回る可能性がある」としています。FOMC参加者は13日のCPI発表を受けて提出した予想を修正できるとみられ、このことが今回のFOMC会合の不確実性をもたらします。
野村の米国のマクロチームは、賃金並びにサービス価格がFOMCや市場の予想ほどには伸びが鈍化せず、12月のFOMC以降も継続した利上げが行われると予想しています。2023年2月、3月のFOMCでそれぞれ0.50%ポイントの利上げ、5月には0.25%ポイントと利上げが継続され、政策金利が最終的に5.50~5.75%に到達するとしています。その後しばらく同じ政策金利が維持されたあと、2023年9月には利下げが開始されるとの見通しです。
③今週の気になる決算:15日(木)のアドビ、ソフトウェア業界の道標
※ここで取り上げる銘柄は、あくまで「今週決算発表がある企業およびその関連企業」のうち、「米国経済やセクター全体を見通す上でインプリケーションが多い」という観点で言及するものです。個別銘柄の勧誘・助言を目的とするものではありません。
サブスク×デジタル・マーケティングの企業、アドビ
アドビ(ADBE)が15日(木)に9-11月期決算を発表します。アドビは2つの企業変革を遂げた会社として知られています。一つは売り切りモデルからサブスクリプション・モデルへの、販売方法の変革です。元々、パッケージで画像編集ソフト等を販売していましたが、「年払い」への移行をソフトウェア業界でもいち早く進め、足元では売上高の8割前後が年間定期収益(ARR)で占められています。
もう一つは、画像編集ソフトからデジタル・マーケティングツールへの、製品ラインアップの変革です。動画編集ソフトの「プレミア」や画像編集ソフトの「フォトショップ」「イラストレーター」などを中心に展開してきましたが、直近では買収なども通じEコマース・サイトの構築や電子署名サービスなど、マーケティングやビジネスフロー全体に関わる製品のラインナップを広げています。足元では、売上高の2割超がこうした製品*です。
*当社の事業セグメントのうち「デジタル・エクスペリエンス」の売上高に占める比率
ソフトウェアセクターを見る上で、アドビに注目すべき理由の一つは、ソフトウェア製品の需要動向を9-11月という期間で見られることにあります。ほとんどのソフトウェア企業は、7-9月期あるいは8-10月期に決算を終えており、これらよりさらに1-2ヶ月進んだ当社の四半期の需要動向をみることで、年明けに来たる10-12月期決算発表を予想する上での材料にすることができます。
もう一つは、異なるソフトウェア領域の需要動向をセグメント単位で見られるというところです。前四半期となる6-8月期決算では、編集ソフトが中心となる「デジタル・メディア」事業の売上高が市場予想を下回った一方、マーケティング製品が中心となる「デジタル・エクスペリエンス」事業は市場予想を上回りました。前者は、個人や個人事業主の利用者も多く、コロナ禍における需要の反動が出ていると見られます。一方、同四半期では法人需要の多いマーケティング系ツールは需要が堅調だったということを示唆しています。
もっとも、法人向け(BtoB)ソフトウェア業界も、7-9月期決算以降は企業により明暗が分かれています。全体観としては、製品のカテゴリによる差異に加え、顧客層による差異も大きくなっていると見られます。当社が強いとみられる小売業のソフトウェア投資動向を探る上でも、参考になるでしょう。
(FINTOS!米国株/小野﨑通昭)