技術発展によってクラウド化が進む

 経済産業省の特定サービス産業実態調査によれば、情報サービス産業の売上高は過去40年強で大きく拡大し、2018年度には24.1兆円に達した。中でも全体の最も大きな割合を占めるのがソフトウェア業である。ソフトウェア産業の拡大には技術革新が貢献してきた。コンピュータ登場以来、ハードウェアとソフトウェアが分離され、さらにアプリケーションやOS、プロセッサ、ストレージなど、機能毎に部品化されるに従い、ソフトウェアを含む各部品の専業企業が登場し、周辺市場が創出されることで、情報通信産業全体が拡大してきた。

 現在進むクラウドコンピューティングの利用拡大も、同じ流れである。ソフトウェア技術の発展によって、ハードウェア等のコンピュータの能力がさらに部品化できるようになり、それがインターネット経由で提供されることでクラウド基盤サービス(IaaS・PaaS)が登場した。そして、クラウド基盤サービスを活用することで、インターネット上に様々なアプリケーション部品(SaaS)が登場し、それらを組み合わせて自社に適したシステムを安価に構築する企業が増加している。日本では米国と比べ、クラウド基盤サービスやSaaS の利用率は未だ低く、これらの利用拡大は今後10年以上続く構造的な変化であろう(図)。

DX でソフトウェアの需要が拡がる

 ソフトウェア産業におけるもう一つの構造変化は需要面の変化である。これまで企業におけるソフトウェアの用途は、業務系や基幹系など、企業内部で用いられるシステムが中心であった。近年ではデジタル・トランスフォーメーション(DX)の重要性が各所で議論されているように、あらゆる企業活動においてソフトウェアが活用されるように変化してきた。

 既存産業に属する企業にとって、DX の中でもビジネスモデル変革等を目指す「デジタライゼーション」は産業構造の変化への対抗策とも言える。インターネットが普及した現在、小売業の一部が電子商取引(eコマース)に代わったように、様々な産業においてインターネットを起点とした産業構造の変化が起きている。

 このため、企業が今後のビジネスモデルの変革や新規事業を検討する際は、ソフトウェアやインターネットの活用が前提となる傾向にある。また、過去1年では特に、新型コロナウイルス感染症の影響拡大によって、顧客接点のオンライン化に取り組む企業が増えている。

 ソフトウェア企業にとっては、顧客企業における対面部門が、これまでの情報システム部門から、経営企画や営業、新規事業開発等のビジネス部門へと広がる点が大きな変化である。これによって、これまでと異なる組織能力が求められるようになるだろう。具体的には、経営コンサルティングや、デザイン、マーケティング等のビジネス系の組織能力を有する企業は、デジタライゼーション案件の獲得において競争で優位になると考えられる。

 また、業務プロセスの効率化や情報技術(IT)基盤の現代化を目指す「デジタイゼーション」に取り組む企業も増えていくと予想され、ソフトウェア企業にとっても主要なビジネス領域となるだろう。複数のクラウド基盤サービスの利用によって複雑化するITインフラの運用管理の需要や、コスト削減につながるSaaS 等の需要が増えるだろう(図)。

(吉田 純平)

※野村週報2021年4月19日号「産業界」より

ご投資にあたっての注意点