※こちらの記事は「野村週報2023年新春号」発行時点の情報に基づいております。

世界の金融環境が一変

 2022年は、世界経済にとって、高インフレの持続を背景に、金融環境がそれまでとは一変した1年だった。3月に利上げを開始した米国FRB(連邦準備制度理事会)に前後し、多くの中央銀行がインフレ抑制を目指して金融政策の舵を引き締め方向へと転換した。

 新型コロナウイルス感染症禍からの経済活動再開に伴う半導体不足などの供給制約や原燃料市況高騰に起因して、21年春頃から加速をはじめていたインフレは、米国、ユーロ圏、英国など主要先進地域を中心として、当初想定されていたよりも加速、高止まり局面が長期化した。各地域の消費者物価前年比上昇率のピーク値でいえば、米国が+9.1%を22年6月に、ユーロ圏、英国がそれぞれ+10.6%、+9.6%を22年10月に記録するに至った。

 22年2月のウクライナ紛争勃発により一次産品市況に追加的な上昇圧力が生じたこともあるが、感染症禍からの経済活動再開に伴う需要・雇用の過熱など、各地域固有の要因によって、当初は外的な供給ショックであったものが、内的・自律的な需要ショックを伴い始めたことが、インフレ加速・高止まりが長期化した要因であろう。

 多くの中央銀行が、インフレを静観する構えから、金融引き締めによるインフレ抑制に舵を切りはじめた背景もこの点にある。特に、米FRBは、感染症禍を経て労働参加率の水準が切り下がったことなど、米国労働市場の構造変化とその結果としての賃金の著しい加速が根強いインフレ圧力の源泉と認識し、労働市場の過熱抑制を金融引き締めの主眼に据えていると考えられる。22年11月以降、グローバル金融市場では米国利上げの減速・休止期待が高まった。一方で、米国野村がなお23年3月にかけてFF(フェデラル・ファンド)レート誘導目標水準の上限が5.00%まで引き上げられるとして、なお大幅な政策金利の引き上げを予想しつづけている背景もこうした認識に基づくものである。

 労働市場の過熱感抑制がインフレ抑制のカギであるとして米国での金融引き締めが継続される可能性は、23年の世界経済動向を占う上で、重要な示唆を含んでいると考えられる。

「リセッション」の現実化

 野村の23年の世界経済成長見通しが総じて悲観的な理由の一端は、この点にある。23年の実質GDP(国内総生産)の前年比成長率の予測値は、米国、ユーロ圏についてマイナスである(図表参照)。米国については、22年10~12月期から24年1~3月期にかけ、前期比でマイナス成長が続くことを予想しており、2四半期以上の前期比マイナス成長で定義されるリセッション(景気後退)に明確に該当する。

 一方、中国経済については、22年の実質経済成長率の大きな抑制要因となってきたいわゆる「ゼロコロナ戦略」が緩和される兆候が生じているものの、感染再燃による供給制約の発生などにより、経済活動再開に伴う経済成長の回復は、緩慢なものに留まると予想している。

 このような世界経済環境の下にあっても、日本経済については、感染症禍からの経済活動再開に支えられ、景気後退突入は回避されると予想している。もちろん、米欧など主要先進地域における景気後退現実化は、23年前半を中心に日本の財輸出を一旦減少に向かわせる公算が大きい。また、伝統的に輸出との連動性の高い設備投資についても相応の減速が生じる恐れは大きいと判断する。しかし、経済活動再開や感染症流行中に累積されたいわゆる強制貯蓄に支えられた個人消費の増加、インバウンド(訪日外国人)需要の回復は継続していくと見込まれ、国内景気は24年に向けて回復基調を維持できると予想する。

 22年は日本でも全国消費者物価(生鮮食品を除くコア)前年比上昇率が10月に40年ぶりとなる+3.6%に到達するなど、インフレ加速が現実化した。しかし、23年には、エネルギー・食料価格の押し上げや円安の効果が前年比で縮小に向かうこと、エネルギー価格抑制策の効果が現れてくることから、インフレ率は低下基調に転じると予想する。

(経済調査部 美和 卓)

※野村週報2023年新春号「内外経済展望」より

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